怖い低血糖も見逃さない!CGM(持続グルコース測定)とは

公開日: 2024/01/04 更新日: 2024/05/22
糖尿病治療中、血糖値を下げることばかりに目がいっていませんか? インスリンや強力な経口血糖降下薬を内服している場合、低血糖にも注意をしなければいけません。 血糖値は常に変動し続けているため、いつ低血糖になっていてもおかしくはありません。 しかし、従来の自己血糖測定(SMBG:Self-Measurement of Blood Glucose)では、測ることができる回数は限られていました。 その欠点を補える方法が持続血糖測定(CGM:Continuous Glucose Monitoring)です。 本記事では糖尿病治療でどうして低血糖が怖いのか、そして低血糖を発見するための検査であるCGMについて解説をしていきます。
目次

低血糖とは? 糖尿病治療で注意するべきこと

低血糖は血糖値が70mg/dL未満となってしまった状態を指します。健康な人であれば、血糖値が極端に下がりすぎないようにさまざまなホルモンが働いて調節しています。

ところが、糖尿病の治療を行っていると、内服薬やインスリンが効きすぎて極端な低血糖を起こしてしまうことがあるのです。

特に他者が援助しないと回復できないような低血糖は「重症低血糖」と呼ばれます。

糖尿病治療中の低血糖の症状は

低血糖になると、まずは体が危機を察知し、交感神経の働きが活発になるのです。

アドレナリンが分泌され、動悸がしたり手が震えたりします。気分がわるくなったり、不安感を感じたりする人もいるのです。

血糖値が50mg/dL程度になると、ブドウ糖が足りないことによる眠気や脱力などが起こります。

同時に、精神症状をきたします。これは、イライラして攻撃的になったり、逆に不安や抑うつ状態になったりなどさまざまです。

さらに30mg/dL程度まで下がると、大脳の機能が低下します。その結果、意識を失ったり、痙攣を起こしたりなど重篤な状態になります。

そのまま放置すると、命に関わることすらあるのです。[1]

糖尿病治療中、低血糖を放置するとどうなるの

低血糖を繰り返すと、最初の交感神経症状が出にくくなってしまいます。

そうなると、突然脱力が起こったり、前触れなく意識障害をきたしてしまったりする可能性があります。

これは、とても危険な状態です。また、低血糖を何回も繰り返している方は、高齢になってから認知症が起こりやすいこともわかっています。[1]

無自覚低血糖

前述のように低血糖による交感神経症状がはっきりしないと、突然の意識消失などが起こりとても危険です。

また、眠っている間の低血糖も交感神経症状が起こりにくくなります。高齢者でも交感神経活性化の症状は認められにくいことがわかっています。

精神症状が起こると周りの人は認知症と間違えてしまうこともあるのです。

このようにして、低血糖がわからないまま意識障害などの重篤な低血糖症状を起こしてしまうことを「無自覚低血糖」と呼びます。

無自覚低血糖をはじめとした重篤な低血糖を起こしたことがある人は、交通事故を起こす可能性が高いことがわかっています[1]

低血糖は、ご自身だけでなく、周りの人も危険に晒してしまうとても危険な状態なのです。

低血糖を見つけるにはどうしたらいいか?検査方法は?

低血糖を発見するにはどうしたら良いでしょう。まずは本人や家族などが低血糖の症状について知ることが大切です。

症状について把握していれば、疑わしい時にすぐに病院に受診することができます。低血糖自体は血液検査でわかるものです。

血糖値という検査項目は基本的なものなので、救急診療などをしている多くの病院で可能です。SMBGが可能であれば、ご自身で確認することもできます。

しかし、自覚症状がなければそもそも検査ができません。また、眠っている間などは血糖値を測りようがありません。このような時に有用とされているのがCGMなのです。

CGM(持続グルコース測定)とは?糖尿病治療の強い味方!低血糖もわかる

CGMとは、お腹や腕などにセンサーをつけることで持続的に血糖値を測ることができる機器を利用した検査のことです[2]

これにより、従来のSMBGでは測定できなかった時間帯にも血糖値を測ることができます。連続的な数値が入手できるため、血糖値の上昇や下降をグラフに表すことも可能です。

また、毎回指先などを穿刺する必要がなく、ほとんど痛みを伴いません。もう一つのメリットとしては、患者さんと離れていても血糖値を確認できることが挙げられます。

CGMの機械には遠隔モニタリング機能があるのです[3]。例えば患者さんがお子さんであれば、学校などに行っている間も保護者が血糖値を知ることができます。

CGMを利用することで、血糖値を視覚的に捉えることができ、どこで血糖値が上がり下がりしやすいかということがはっきりします。

血糖値の変動が大きい方や、低血糖を繰り返している方にとって非常に有用です。特に早朝や深夜などの低血糖を把握するのに役立ちます。

糖尿病治療中に使用するCGMの使い方や仕組みとは?

CGMのセンサーにはごく小さな針がついており、それを皮膚の下に挿入します。皮下組織の細胞と細胞の間にあるのは、「間質液」と呼ばれる少量の液体です。

食後に食べ物から吸収された糖は血液にのって全身に運ばれ、間質液を介して細胞に届けられます。CGMではこの間質液の糖の濃度を測定しているのです[4]

間質液の糖は厳密には「血糖値」ではありませんが、血糖値に近い数値となります。

糖尿病診療における自己血糖測定(SMBG)とCGMの違い

SMBGでは、指先などに針を刺して血液を採取します。つまり、SMBGで測定できるのは実際の「血糖値」です。

一方でCGMでは、前述の通り測定できるのは間質液中の糖です。そのため、血糖値が変動してから間質液の糖が変動するまでには僅かな時間のズレがあります。

普段は問題になりませんが、大きく血糖値が変動している時には正確に測れない可能性があります[4]

SMBGでは測定の度に針を刺すため、当然ある程度の痛みが伴います。また、測定するその時の血糖値しか知ることができません。

CGMでは5〜15分ごとに測定を行うため、連続的なデータを得ることができます。センサーの針は小さく、取り付ける時の痛みはほとんどありません。

さらに、一度装着すると1〜2週間はそのまま取り外さずに過ごすことができます。ただし、長期の装着による皮膚トラブルが起こる可能性は否定できません[4]

リアルタイムCGMとFreestyleリブレ®️(間歇的スキャンCGM:isCGM)の違い

CGMには大きく分けて2つの種類があります。一つは、常にセンサーで測定した糖の値がモニターに表示される「リアルタイムCGM」です。

もう一つは、センサーを機械でスキャン操作した時にのみ数値が表示される「間歇的スキャンCGM(isCGM:intermittently scanned continuous glucose monitoring)」です。[3]

現在、リアルタイムCGMは2機種、isCGMはFree Styleリブレ®️という1機種が国内で使用できます[3,4]

これと別に、特殊なものとして医療従事者向けのisCGMであるFreeStyleリブレPro®️があります。

これは患者さんにはセンサーのみをつけてもらい、来院毎に医療従事者がセンサーをスキャンして血糖値のデータを得るものです。

こちらは最長14日間の血糖値を記録しておくことができます[5]

リアルタイムCGMのメリットとデメリット

リアルタイムCGMでは5分毎に皮下間質液のグルコースを記録します。血糖値のデータはリアルタイムで接続しているモニターに表示されるのです。

血糖値の上がり下がりがどのようになっているのか、そのトレンドも表示することができます。

また、極端な低血糖や高血糖の時は、アラートを発して使用者に注意喚起する機能もあります。

得られたデータを組み合わせて、危険な低血糖などが近いうちに起こる可能性があることを知らせる機能もあるのです。[4]

デメリットとしては、isCGMと比較してセンサーの使用期間が短いことが挙げられます。

isCGMのFreeStyleリブレ®️では14日間使用可能なのに対し、リアルタイムCGMのセンサーは7〜10日までとなっています[3]

また、一部の機種では「キャリブレーション(較正)」が必要です。キャリブレーションとは1日に数回SMBGを行い、センサーの数値を補正することです[3,4]

この作業を行うことでより血糖値に近い数値を得ることができるのです。

リアルタイムCGMの糖尿病診療における保険適用は

リアルタイムCGMには2種類の機械があります。それぞれ保険適用が異なっています[6]

Dexcom G6®️という製品は1日1回以上インスリンの自己注射を行っている通院中の患者さんが保険診療で使用することができます。

もう一つの機種であるガーディアンコネクト®️は次のような方が対象です。

  • 急性発症1型または劇症1型糖尿病患者:低血糖対策と血糖コントロールの両方が必要な患者さんが対象です。
    このような方はインスリンポンプと一体になった持続血糖測定モニターを考慮しますが、さまざまな事情でそれらが使えない場合に保険適用となります。

  • 2型糖尿病患者:すでにインスリンが枯渇していてインスリンの自己注射を行っている患者さんの一部が対象です。
    重篤な低血糖を繰り返すなど血糖コントロールがうまく安定しない方が想定されています。
    さらに、持続血糖測定器加算の施設基準を満たす医療機関に通院中でないと使用することができません。

持続血糖測定器加算の施設基準は

持続血糖測定器加算の施設基準は次の通りです[6]

  • インスリンポンプ一体型リアルタイムCGMと同様にインスリンポンプ治療を行っている糖尿病専門医が1名以上常勤で在籍している(糖尿病の治療経験5年以上が必要)

  • インスリンポンプ治療の経験が2年以上ある常勤の看護師・薬剤師が1名以上配置されている(糖尿病療養士・糖尿病看護認定看護師など)

  • 皮下連続式グルコース測定に関する施設基準の届出を行っている医療機関である

  • スタッフは日本糖尿病学会などが行っているe-learningを受講している

医療機関はこれらの条件を満たすことにより、機器の管理・取り扱いなどの注意点を指導したり莫大なデータを解析して対応したりすることが求められます。

糖尿病学会の『リアルタイムCGM適正使用指針』

リアルタイムCGMを利用することで、血糖値の変化を常時グラフで可視化できます。さらに、アラート機能により低血糖の予測をすることも可能です。

そのためインスリン治療中の患者が低血糖に対して適切に対応できることが期待されているのです。

リアルタイムCGMのメリットを最大限に有効活用するため、糖尿病学会では『リアルタイムCGM適正使用指針』を発表しています。ここではその内容を簡単にご説明しましょう[6]

前述の通り、DexcomG6®️とガーディアンコネクト®️は保険適用が異なるため、機器毎に使用が想定されるケースがやや異なります。

DexcomG6®️では血糖変動が大きい患者、低血糖対策の必要性が高い患者への継続使用が考えられています。また、短期的・間歇的に利用することもあり得るのです。

インスリンの開始時・治療の変更直後・患者教育などで血糖の状況を把握したい時、周術期やシックデイなど綿密な血糖コントロールが求められるケースなどが該当します。

ガーディアンコネクト®️の保険適用となるのは、インスリン療法を行っている患者さんで、低血糖リスクが高い方です。

無自覚低血糖や夜間低血糖を起こしやすい患者さんの治療へ期待が寄せられています。

いずれの機器でも、使用者はSMBGで血糖値を確認するべき状況を知り、適切に対応できる必要があるのです。

また、施設要件のあるなしの違いはあるものの、どちらの機器でも医療機関側もチームとしてデータの解析や患者への指導などを正しく行うことができることが求められています。

特に、アラートの設定・必要時のSMBG指導・アラート時の対応の指導が重要です。

isCGMのメリットとデメリット

isCGMはフラッシュグルコースモニタリング(FGM:Flash Glucose Monitoring)とも呼ばれます[7]

センサーで測定されたデータは最大8時間分センサー内に蓄積されます。

使用者は定期的にセンサーを専用機器や対応するスマートフォンなどでスキャンし、その時の血糖値や血糖値の連続的な変化を確認することができるのです。

リアルタイムCGMと違って常時接続ではなく、スキャンした時のみ確認ができるのです。現在(令和5年9月時点)、日本で使用できるisCGMはFreeStyleリブレ®️のみです。

センサーはおよそ14日間使用できます[3]。リアルタイムCGMが7〜10日であったのと比べて長期の使用が可能です。

また、キャリブレーションは出荷時に行われており、使用時に行う必要はありません。ただし、その分、本来の血糖値との誤差が大きくなる可能性もあります。

isCGMにはリアルタイムCGMと違ってアラート機能がありません。

自覚症状がある時を除いては、後から振り返って低血糖や高血糖になっていないか、また血糖の上下のトレンドがどうだったかを振り返ることしかできないのです。

また、センサーの装着部位は腕のみとなっており、服装によっては外からわかってしまうこともデメリットです。

isCGMの糖尿病診療における保険適用は

FreeStyleリブレ®️は1日1回以上のインスリン自己注射を行っている方が保険適用となります[3,7]

DexcomG6®️の場合と同じです。FreeStyleリブレ®️の場合でも、必要時にはSMBGを行うことが求められます。

CGM使用時の注意点

CGMを使用する上で大事なことがあります。CGMはSMBGの代替えにはならないということです[6]。間質液の測定では、多少なりとも誤差が出る可能性があります。

低血糖症状がある時、あるいはリアルタイムCGMでアラートがなった時には、まずはSMBGを行い、血糖値をしっかり確かめることが重要です。

そのため、CGMを使用する場合は、SMBGのやり方も覚えておく必要があります。

Q&A

リアルタイムCGMのアラートが鳴ったらどうしたらいいの?

アラートがなった時には、まずはSMBGを実施して血糖値を確認しなければなりません[6]。リアルタイムCGMの数値は正確には血糖値ではないからです。

測定した血糖値を参考に、事前に医師から指示された対応を行いましょう。CGMに表示される数字だけで対応を自己判断してはいけません。

また、アラートがなっていない時に、勝手にインスリンを増やしたり減らしたりすることも望ましくないのです。

CGM中にレントゲンやCT、MRIなどの検査は受けられるの?

原則として、これらの検査の時には、機器は外さなければいけません[8,9]。レントゲンやCTでは放射線を利用して検査をします。

検査前に取り外しておかなければ不具合が起こってしまう可能性があります。MRIは磁気を利用した検査です。金属類は検査室内に持ち込めません。

どこまで外せば良いかは機器によっても異なりますので、検査前に必ず申し出て指示を仰いでください。

また外した後の機器の取り扱いについてはかかりつけの医療機関に相談をしてください。

まとめ

本記事の前半では低血糖の恐ろしさについて、後半ではその低血糖をはじめとした血糖変動を見ることができるCGMについてそれぞれ解説を行いました。

CGMにより、どこで血糖値が下がりやすいかということがわかれば、糖尿病の治療の調整がスムーズになります。

血糖の変動がグラフ化されることは、患者さんにとってもわかりやすく、治療や低血糖予防に取り組みやすくなるでしょう。

しかし、CGMの結果は血糖値と100%一致しているものではありません。必要に応じてSMBGと併用をしましょう。

参考文献

[1]日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2019. 糖尿病における急性代謝失調・シックディ(感染症を含む)

[2]富山大学付属病院|富山大学附属病院の先端医療 [Q&A]Q:持続血糖測定(CGM)による最適な糖尿病管理―糖尿病

[3]菅沼由佳, 高橋紘, 西村理明. 医学のあゆみ. 281(6): 612-618, 2022.

[4]林哲範, 宮塚健. 北里医学. 52:35-41, 2022.

[5]FreeStyle|医療関係者向け 製品情報 製品比較

[6]日本糖尿病学会. リアルタイムCGM適正使用指針

[7]廣田勇士. 糖尿病. 61(12):809-911, 2018.

[8]日本糖尿病協会|糖尿病医薬品・医療機器等適正化委員会

[9]日本糖尿病協会|糖尿病医薬品・医療機器等適正化委員会 製品ごとの取り扱い一覧リーフレット

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