糖尿病黄斑浮腫はなぜ発症する?症状・診断・治療法について徹底解説!

公開日: 2024/01/04 更新日: 2024/05/22
糖尿病黄斑浮腫ってどんな病気?治療すれば完治する?放っておくとどうなるの といった疑問をお持ちの方もいるかもしれません。 糖尿病黄斑浮腫(とうにょうびょうおうはんふしゅ)とは、糖尿病の合併症の1つである糖尿病網膜症によって生じる網膜(黄斑)の浮腫です。 物がゆがゆがんで見え、視力低下などの症状を自覚しますが、適切な治療を受けないと失明する可能性がある非常に危険な病気です。 この記事では、糖尿病黄斑浮腫の症状・診断基準・治療法などについて徹底解説しています。 自覚症状がある人・糖尿病を患っている人は参考にしてみてください。
目次

糖尿病黄斑浮腫とは?糖尿病網膜症で生じる黄斑浮腫

糖尿病黄斑浮腫とは、糖尿病網膜症において網膜(黄斑部)に浮腫が生じる病気です。黄斑部は網膜の中心にあり、細かい形や色を識別する働きがあります。

この黄斑部は網膜の中でも重要な役割を担っており、病状が進行すると視力低下を引き起こし、最悪の場合失明に至る危険性もあります。

糖尿病黄斑浮腫は糖尿病患者の視力障害の原因の上位を占めており、日頃から血糖コントロールを良好にしておくことが重要です。

症状を感じたときは、すでに症状が進行している場合もあるので、自覚症状がなくても定期的に眼科検診を受けておきましょう。

糖尿病黄斑浮腫の種類

糖尿病黄斑浮腫には『局所性黄斑浮腫』と『びまん性黄斑浮腫』の2種類があり、それぞれ症状が異なります。

それぞれの違いについて、以下で解説します。

局所性黄斑浮腫

局所性黄斑浮腫とは、黄斑部もしくはその周囲の狭い範囲に滲出液(しんしゅつえき)が貯留(浮腫)する状態をいいます。

まだ症状が広範囲に及んでいないため、早期に治療できると完治する可能性もあります。

びまん性黄斑浮腫

びまん性黄斑浮腫は、滲出液の貯留が黄斑部やその周囲に留まらず、黄斑部全体に広がっている状態をいいます。

また、症状が悪化していると嚢胞様浮腫(のうほうようふしゅ)を生じることもあります。

嚢胞様浮腫とは、網膜の中に水ぶくれがある状態です。

糖尿病黄斑浮腫の原因は?

糖尿病黄斑浮腫の大きな原因は、糖尿病網膜症です。

目の血管が出血したり毛細血管が閉塞したりすることで瘤(こぶ)ができ、血液中の滲出液がしみだした結果、網膜にある黄斑部が浮腫んでしまいます。

また、糖尿病網膜症によって血管が狭まり、虚血状態になると血管内皮増殖因子(VEGF)という物質が血管新生(けっかんしんせい)を起こすことで、血管から滲出液が漏れ出し、黄斑がむくんでしまいます。

血管新生とは新しい血管がつくられることです。一見良いことだと考えがちですが、血管新生でつくられた血管は非常にもろ破れやすいため、症状の悪化にもつながる、危険なものです。

糖尿病網膜症以外にも、ぶどう膜炎・網膜静脈閉塞症・白内障手術後に伴う眼底出血や炎症が起因していることもあります。

糖尿病黄斑浮腫を放置すると神経へダメージが広がり、視機能が回復しない恐れもあるため、早期治療が鍵となります。

糖尿病黄斑浮腫の症状

糖尿病黄斑浮腫は、以下の症状がよく挙げられます。

  • 歪み(物が歪んで見える)

  • かすみ目

  • コントラストの感度低下(色の濃淡や明暗が分かりにくい)

  • 物が大きく見える・小さく見える

この中でも代表的な症状が『歪み』で、自覚症状として訴える人も多いのが糖尿病黄斑浮腫の特徴です。

また、視機能の中でも重要な部分に浮腫が生じているため、視力低下を自覚する人もいます。

症状がさらに進行してしまうと失明のリスクもあるため、早期治療が重要です。

ただし、糖尿病黄斑浮腫は初期症状がほとんどないことも知られており、自覚症状を感じた時点で、すでに症状が進行しているケースも少なくありません。

糖尿病を罹患している人は、視覚に関する自覚症状がなくとも定期的に眼科検診を受けましょう。

糖尿病黄斑浮腫の早期発見・早期治療につながります。

糖尿病黄斑浮腫の診断基準

従来では、医師の主観で診断されていましたが、現在では光干渉断層計(OCT)の検査結果で糖尿病黄斑浮腫の診断・重症度がつけられるようになりました。

糖尿病黄斑浮腫は、光干渉断層計(OCT)二次元マップにおける中心1mmの平均網膜厚が300μm以上の場合に診断がつきます。

また、眼底所見に基づいた糖尿病黄斑浮腫の重症度分類は以下の通りです。[1]

重症度

眼底所見

糖尿病黄斑浮腫なし

 

後極部に網膜肥厚や硬性白斑(※)なし

糖尿病黄斑浮腫あり

軽症

黄斑部中心から離れた部分に網膜肥厚や硬性白斑あり

中等症

網膜肥厚や硬性白斑が黄斑部中心の近くにあるが含んでいない

重症

網膜肥厚や硬性白斑が黄斑部中心にも現れている

(※)硬性白斑:網膜の血管が痛んで血液中のタンパク質が漏れ出し、網膜の中に白く沈着したもの。

そのほか、『視力をおびやかす糖尿病黄斑浮腫』として3つの分類があります。視力低下を引き起こしやすい黄斑浮腫の判定として有用な分類とされています。

  • 中心窩もしくは中心窩から500μm以下の網膜肥厚

  • 中心窩もしくは中心窩から500μm以下の硬性白斑があり近接した網膜の肥厚を伴う

  • 1 乳頭径大以上の網膜の肥厚で、その一部が中心窩から1乳頭径以内に存在する

いずれも早急な治療を要する状態です。糖尿病黄斑浮腫は放置せず、適切な治療を受けることで悪化を防げます。

糖尿病黄斑浮腫の治療法

以前まで糖尿病黄斑浮腫への治療法はレーザー治療・硝子体手術が主軸でした。

現在は、抗VEGF薬が普及したことやステロイド注射を行うことで、大幅な視機能回復が見込めるようになりました。

糖尿病黄斑浮腫の治療法は以下の通りです。

  • レーザー治療

  • ステロイド注射

  • 抗VEGF薬注射

  • 硝子体手術

それぞれについて詳しく解説していきます。

網膜光凝固(レーザー治療)

網膜光凝固(レーザー治療)は、局所性糖尿病黄斑浮腫・びまん性糖尿病黄斑浮腫どちらにも適応する治療法の1つです。

網膜の血管にある瘤(こぶ)に直接レーザーを照射することで瘤を焼き固め、滲出液が漏れ出すのを防ぎます。

ただし、すべての瘤を特定するのは非常に難しく、場合によっては追加照射が必要となります。術後の経過観察は怠らないよう注意しましょう。

びまん性糖尿病黄斑浮腫ではアプローチの仕方が異なり、酸素供給の多い視細胞(細胞が活発で浮腫が生じやすい)へ格子状に照射する方法が提唱されています。

ある研究結果では、びまん性糖尿病黄斑浮腫患者の視力が回復したという結果も出ており、硝子体手術と同様に有効な治療法だといわれています。[2]

ただし、この治療法は照射出力を上げる必要があり、術後の網膜萎縮や炎症を起こすリスクがあるのも事実です。

​​ステロイド注射

糖尿病黄斑浮腫には慢性的な軽度炎症があります。ステロイドを使用した薬物治療も有効な治療法の1つです。

国内では、持続性副腎皮質ステロ イドであるトリアムシノロンアセトニドの硝子体注射とテノン嚢下注射が承認されています。

硝子体注射よりもテノン嚢下注射の方が眼内炎・緑内障・白内障の発症リスクが少なく、実施している医療機関が多いです。[3]

抗VEGF薬注射

糖尿病応対浮腫は、血管内皮増殖因子(VEGF)という物質が血管新生を引き起こすことで症状が悪化してしまいます。

そのため、VEGFの働きを抑える抗VEGF薬を硝子体内に注射し症状の抑制・改善を狙うのが抗VEGF薬での治療法になります。

現在、糖尿病黄斑浮腫の治療法の中で最も治療成績が多く、症状の程度によっては光凝固よりも視力の回復や視機能の改善効果が大きいという研究結果も報告されています。

注射間隔は、注射する薬剤によって異なります。[4]

商品名

ルセンティス

アイリーア

マキュエイド

一般名

ラニビズマブ

アフリベルセプト

トリアムシノロンアセトニド

用量

0.5 mg/0.05 ml

2.0 mg/0.05 ml

4.0 mg/0.1 ml

用法

1ヶ月以上空けて適宜

1ヶ月ごとに連続5 回。

その後、2ヶ月ごとか1ヶ月以上空けて適宜

再投与は3ヶ月以上空ける

この治療法のデメリットは、治療費が高い点です。

3割負担で約55,000円、1割負担で約12,000円の費用がかかるため、他の治療法も検討しておく必要があります。

硝子体手術

網膜全体に浮腫が見られる場合は、硝子体手術の適応となります。

眼球内部は硝子体というゲル状の物質で満たされていますが、硝子体を除去し水に置き換えるのが硝子体手術です。

硝子体を除去することで硝子体内になる血管内皮増殖因子がなくなり、黄斑浮腫や視力の改善も見込めるようになります。

また、硝子体手術は抗VEGF薬注射と違い、永続的な効果が得られるため、コスト面では優れているともいえます。[5]

ただし、硝子体手術のデメリットは、術後再発した時に抗VEGF薬注射の持続期間が短縮されることです。

その場合、治療が難航するリスクもあるため注意が必要です。

硝子体手術は初回から治療の選択肢として提示されることは少ないですが、糖尿病黄斑浮腫の改善が大きく期待できる治療法です。

糖尿病黄斑浮腫の予防法

黄斑浮腫の根本の原因は、糖尿病です。

状態に合わせて適切な治療を受け、血糖コントロールを良好にすることが、発症予防に有効的です。

また、糖尿病以外に高血圧・脂質異常症といった生活習慣病があると、網膜症ひいては糖尿病黄斑浮腫の発症リスクを高めてしまいます。

そのため、食生活・嗜好品など生活習慣の見直しも非常に重要です。

血糖コントロール

血糖コントロールで重要なのは、食事・運動・薬物治療の3種類です。

食事では、1日の適切なエネルギー量を守り過食しないことがまず1つ。

1日の適切なエネルギー量(kcal) = 目標体重(kg) × エネルギー係数[6]

また、三大栄養素のバランスも血糖コントロールにつながります。

  • 炭水化物:50〜65%

  • 脂質:20〜30%

  • たんぱく質:15〜20%

適切なエネルギー量でバランスの良い食事を取るときは、『糖尿病食事療法のための食品交換表』が参考になります。[7]

交換表を参考にすることで献立の幅も広がり、食事への意識も高まりやすくなります。バランスの良い食事を目指すために、ぜひ活用してみましょう。

運動においては、脂肪が減り、血糖値を下げるインスリンの分泌が効果を発揮しやすくなるため、週1〜2回程度定期的に運動すると良いでしょう。

筋トレのような無酸素運動やウォーキングといった有酸素運動のどちらでも、得られる効果に大きな差はありません。継続できる運動を見つけることが大切です。

薬物治療には、内服治療とインスリン注射の2種類があります。血液検査の結果に合わせて医師が処方するため定期受診を怠らないようにしましょう。

定期的な眼科受診

物が歪んで見える、かすむなどの自覚症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。早期発見・早期治療につながります。

また、眼科受診する前にアムスラーチャートを用いたセルフチェックもインターネット上から検索して行えます。

アムスラーチャートとは、格子状の図を見ながら、ゆがみ・中心暗転(見ようとする部分が暗く見える)の有無をチェックできるツールです。

見え方に違和感を感じた場合は、試してみるのも良いでしょう。

糖尿病黄斑浮腫に関するQ&A

最後に、糖尿病黄斑浮腫に関してよく聞かれる質問についてお答えします。

糖尿病黄斑浮腫の初期症状は?

糖尿病黄斑浮腫の初期症状は、ほとんどないケースが多いです。

症状が進行して歪みやかすみ目などの症状を自覚し、病気を発見した時点で治療を開始しても手遅れである可能性があります。

糖尿病黄斑浮腫は発見が遅れやすい病気であるため、糖尿病の方は自覚症状がなくとも定期的に眼科検診を受けましょう。

糖尿病黄斑浮腫は完治する?

糖尿病黄斑浮腫は、まだ症状があまり進行しておらず、血糖コントロールが良好な状態であれば完治する可能性もあります。

ただし、初期症状がほとんどなく症状を自覚した時点で既に手遅れであることもあるため、早期発見・早期治療が重要です。

糖尿病黄斑浮腫になると失明する?

糖尿病黄斑浮腫になった場合、失明するリスクがあります。

糖尿病網膜症によって網膜の血管が閉塞されると、酸素や栄養が供給されず、神経が正常に機能しなくなります。

さらに、網膜の血管から血管内皮増殖因子(VEGF)が放出され、血管新生により新しい血管が作り出されます。

ただし、この血管は正常な血管とは異なり、非常にもろいため出血しやすく酸素も運搬しません。

新生血管が作り出されると症状が進行するだけでなく、失明につながる牽引性網膜剥離(けんいんせいもうまくはくり)や血管新生緑内障という合併症を引き起こすこともあります。

糖尿病黄斑浮腫の硝子体注射の回数は?

硝子体注射の接種間隔は、薬剤の種類によって異なります。

よく採用される薬剤のルセンティス・アイリーアは1ヶ月間隔で注射を行います。(アイリーアは別条件あり)

検査結果や目の状態に合わせて適宜注射を追加していきますが、年単位で継続するケースが多いです。

硝子体注射は保険診療ではありますが、費用が高額なため医師と相談しながらベストな治療法を探しましょう。

糖尿病黄斑浮腫を放置するとどうなる?

糖尿病黄斑浮腫を放置すると、病状が進行し視力低下や失明する可能性があります。

完全な失明まで進行してしまうと回復は見込めないため、放置せず適切な治療を受けましょう。

また、初期は無症状であることが多いです。症状を自覚せずとも、定期的に眼科検診を受け、早期発見・早期治療につなげましょう。

見え方の異変に気付いたら早めに眼科へ受診しよう

糖尿病黄斑浮腫は早い段階で発見できれば完治する可能性もありますが、初期症状がほとんどなく、発見が遅れやすい病気です。

視力低下や失明を防ぐために、日頃から血糖コントロールを良好にし、糖尿病治療を適切に受けることが非常に重要です。

また、高血圧・脂質異常症など生活習慣病は発症リスクを高めるため、生活習慣に不安を感じる人は少しずつ意識しながら改善していきましょう。

物が歪んで見える、かすむといった症状を自覚した場合は早めに眼科へ受診しましょう。

参考文献

[1]日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会.”糖尿病網膜症の分類”.糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)2021.,(参照2023-09-17)

[2]聖路加国際病院眼科 大越貴志子.”糖尿病びまん性黄斑浮腫に対する光凝固療法の視力予後と 予後関連因子に関する臨床研究”.NGAZ4-5_59847.pdf.2005(参照2023-09-17)

[3]清水 啓史 野田 航介.”黄斑浮腫の薬物療法”.日本糖尿病学会誌第62巻第11号.2019.(参照2023-09-17)

[4]小椋祐一郎  髙橋 寛二  飯田 知弘.”黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン”黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.2016.(参照2023-09-17)

[5]三井一央 塩野陽 向後二郎 宮本純輔 佐々木寛季 四方田涼 高木均.”糖尿病黄斑浮腫への硝子体手術適応の検討”.糖尿病黄斑浮腫への硝子体手術適応の検討.2015.(参照2023-09-17)

[6]日本医師会.”1日に必要なカロリー 推定エネルギー必要量”.(参照2023-09-17)

[7]糖尿病食事療法のための栄養交換表 第7版による 6つの食品グループと調味料(参照2023-09-17)

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