糖尿病による血管新生緑内障|3大合併症の網膜症に要注意!

公開日: 2024/01/03 更新日: 2024/05/22
糖尿病の人は、緑内障になりやすいと知っていますか? 緑内障は最悪の場合、失明の可能性がある危険な疾患です。 本記事では、糖尿病により緑内障のリスクがあがる原因や症状、治療法について解説します。 また、糖尿病による緑内障は、糖尿病網膜症の悪化により発症します。 糖尿病網膜症は、糖尿病患者が合併に気を付けたい疾患の1つです。 糖尿病網膜症についても、原因や症状、治療、検査、予防方法に至るまで、本記事の中で詳しく解説します。 ぜひ最後までご覧ください。
目次

なぜ糖尿病で緑内障に?原因・症状・治療方法について

緑内障とは、何らかの原因により視神経が障害されることで、目の見える範囲が狭くなる疾患です。

糖尿病と緑内障は一見まったく関係ないように思えますが、糖尿病によって緑内障の中でも「血管新生緑内障」の発症リスクが上がります。[1]

本章では、糖尿病による血管新生緑内障の原因や症状、治療方法について解説します。

糖尿病による緑内障の原因は網膜症

糖尿病による緑内障の原因は「糖尿病網膜症」です。

眼の中には網膜という、光として受け取った情報を映像にするためのフィルムがあります。

糖尿病網膜症は、以下のように網膜が障害され、視力の低下を招きます。

  1. 糖尿病による高血糖状態が長く続く

 ↓

  1. 網膜の毛細血管が傷つき、出血するもしくは血管が閉塞する

 ↓

  1. 網膜に酸素を回すため、新しく血管を作る(新生血管)

 ↓

  1. 新生血管はもろいため、さらに出血する

 ↓

  1. 出血から漏れ出した成分が網膜に沈着する

 ↓

  1. 1)〜6)を繰り返す

 ↓

  1. 視力低下

糖尿病による緑内障は、上記の過程で生じる新生血管が眼の中の虹彩や毛様体などに生じると発症します。[2]

虹彩とは、黒目の周りにある色のついた部分であり、主な役割は眼に取り込む光量の調節です。

毛様体は、虹彩と繋がっている眼の筋肉で、主な役割はピントの調節です。

眼の中は絶えず房水という水が循環していますが、虹彩や毛様体に新生血管ができると房水の流れを止めてしまうことがあります。

その結果、眼の中の圧力(眼圧)が上昇し、視神経を圧迫するため、緑内障となります。

糖尿病による緑内障の症状

糖尿病による血管新生緑内障は、はじめは無症状で進行します。

人によっては充血がみられます。

視野の一部が見えなくなり始めても、両眼で互いの視野を補うため、視野が欠けている感覚は乏しく、正常に感じることが多いです。

そのため、視野が欠けているといった自覚症状が現れる頃には、かなり進行していると考えられます。

一度欠けてしまった視野は取り戻せません。

失明を防ぐためにも、年に1度は眼科で検査を受け、早期発見することが大切です。

糖尿病による緑内障の治療方法

糖尿病による緑内障の治療は、進行を予防し失明を防ぐために行います。

主な方法は以下の通りです。

  • 手術:レーザー光凝固、抗VEGF療法

  • 血糖コントロール:食事、運動、薬

順に解説します。

糖尿病による緑内障で行う手術

糖尿病による緑内障の進行を防ぐため、新生血管を作らないことが重要です。

そこで行うのが、レーザー光凝固術という治療です。新生血管に直接レーザーを照射すると、新生血管ができるのを防ぎ、新生血管からの出血を止めることができます。

レーザー光凝固術は早い段階で行うと非常に有効であり、失明を予防できます。[2]

抗VEGF療法は、VEGFの働きを抑える薬剤を、眼の中に注射する治療です。[1]

VEGFは、新生血管を作るのに必要な物質です。VEGFの抑制により、新生血管をできないようにして緑内障の進行を抑えます。

血糖コントロールは常に重要

そもそも、眼に新生血管ができるのは、長期的な高血糖により血管が傷つくためです。したがって、日々の治療で血糖値をコントロールしましょう。

食事と運動をはじめとした生活習慣を整えるのはもちろん、医師から処方された薬は指示通り服用することが大切です。

糖尿病網膜症とは?網膜症の失明率と失明前兆

本章からは、血管新生緑内障の原因となる糖尿病網膜症について、さらに詳しく解説します。

糖尿病網膜症とは?

糖尿病網膜症は、血糖値が高い状態が長く続くことで、網膜の血管が障害される疾患です。

網膜は、映像を映し出すフィルムの役割があります。傷つけられた網膜の血管から、タンパク質などが沁みだして沈着すると、視力が低下します。

糖尿病網膜症は最悪の場合、失明に繋がる疾患です。

糖尿病網膜症の失明率は?

それでは糖尿病網膜症のうち、どのくらいの確率で失明してしまうのでしょうか。

糖尿病患者のうち、糖尿病網膜症の有病率は24.8%です。そのうち、視力をおびやかす可能性のある糖尿病網膜症は5.3%という報告があります。[3]

また、糖尿病網膜症は成人における失明原因の第2位、50〜60代では第1位です。[4]

糖尿病の失明前兆とは?

糖尿病網膜症は、初期症状がほとんどありません。

そのため、以下のような症状が現れた場合、失明の一歩手前まで進行していると考えられます。

  • 目がかすむ

  • 視力が低下した

  • 黒い虫のようなものが見える

糖尿病による失明予防のためにも、糖尿病と診断されたら直ちに眼科を受診しましょう。また、最低でも年に1回は眼科を受診するのがおすすめです。

糖尿病網膜症の症状について

糖尿病網膜症の症状は、一般的に3段階に分かれます。[2][3]

  • 初期症状:単純糖尿病網膜症

  • 中期症状:増殖前糖尿病網膜症

  • 末期症状:増殖糖尿病網膜症

順に解説します。

初期症状:単純糖尿病網膜症

糖尿病網膜症の初期段階である、単純糖尿病網膜症では、自覚症状がほとんどありません。

しかし眼の中では、点状の小さな出血があったり、毛細血管の壁が盛り上がってコブができたりといった変化があります。

血管からタンパク質や脂肪などがしみ出して、シミができる場合もあります。

単純糖尿病網膜症のうちは、血糖コントロールが良好であれば改善することも多いです。

中期症状:増殖前糖尿病網膜症

初期から1つ進むと、増殖前糖尿病網膜症となります。

目のかすみなど自覚症状が現れる人もいますが、多くは無症状です。

増殖前糖尿病網膜症では、毛細血管が詰まって、網膜に血液が流れない場所が出てきます。

血液が流れないと十分に酸素が行き届かないため、新しく血管を作る準備を始めます。

末期症状:増殖糖尿病網膜症

最終的には、増殖糖尿病網膜症となります。

詰まった血管の先に血液を送るため、網膜や硝子体に新しく血管が作られます。硝子体とは、眼の真ん中を満たしている無色透明なゲルのことです。

新しく作られた血管(新生血管)は非常にもろく、出血しやすいです。

そのため網膜や硝子体の新生血管から出血すると、黒い斑点が動いて見えるなどの飛蚊症の症状や、視力の低下が現れます。

また、新生血管の周りにできた増殖性の組織が網膜をひっぱり、網膜剥離を引き起こすこともあります。

糖尿病網膜症の検査について

糖尿病網膜症を早期発見し進行を防ぐため、年に1度の眼科受診が有効です。

糖尿病網膜症の検査では、以下のような検査が行われます。

  • 視力検査

  • 眼圧検査

  • 細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査

  • 眼底検査

  • 蛍光眼底造影

  • 光干渉断層計(OCT)

それぞれの検査方法や検査で分かることを解説します。[3]

視力検査

糖尿病網膜症に限らず、眼について調べる際に行われます。

裸眼視力と矯正視力を測定します。

眼圧検査

眼圧も眼を調べる際に行われる一般的な検査の一つです。

空気を一瞬眼に当て、眼球のへこみ具合から測定します。

糖尿病網膜症に関連して、血管新生緑内障の発症有無を確認できます。

細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査

細隙灯顕微鏡検査も、糖尿病網膜症に限らず眼を調べる際に行われる検査です。

医師が双眼鏡型の機械を通して、眼に当てた細隙灯という光をもとに眼の中を観察します。

眼の傷や炎症など様々な異常がわかります。

眼底検査

眼底検査は、糖尿病網膜症の診察を行う上で非常に重要な検査です。

瞳孔を開いて、眼底レンズを用いて観察したり、カメラを用いて撮影したりします。

病院によっては散瞳薬という瞳孔を開く目薬を点眼する場合がありますが、痛みはありません。

散瞳薬を使うと6時間程度は光をまぶしく感じるため、車の運転などはしないようにしましょう。

眼底検査では、糖尿病網膜症における網膜の血管の異常(コブや出血、シミなど)を確認します。

蛍光眼底造影

眼底検査で異常が疑われたら、蛍光眼底造影による詳しい検査を行います。

蛍光眼底造影では、腕の静脈から蛍光造影剤を流し、血流や新生血管の有無、血液からの漏れなどを調べます。

光干渉断層計(OCT)

光干渉断層計(OCT)では、赤外線をあてて網膜の断面を画像化します。

糖尿病による視力低下の原因の1つである、糖尿病黄斑浮腫の診断に有効です。

糖尿病網膜症は治る?

失明の可能性がある糖尿病網膜症ですが、治療で治るのか気になる方もいるかもしれません。

本章では、糖尿病網膜症の治療方法と、視力が回復するのかについて解説します。

糖尿病網膜症の最新治療

現在、糖尿病網膜症で行われる治療は以下の通りです。

  • 網膜光凝固(レーザー治療)

  • 硝子体(しょうしたい)手術

  • 硝子体注射(抗VEGF療法・ステロイド療法)

順に解説します。

網膜光凝固(レーザー治療)

糖尿病網膜症は、網膜の血管が詰まって酸素がいきわたらず、新生血管が作られることで進行します。

新生血管はもろく、すぐに出血してしまうためです。この新生血管を作らせないようにする治療が、網膜光凝固というレーザー治療です。

血管が詰まっている部分や新生血管の部分にレーザーを当て、新生血管が作られるのを止めます。

増殖前糖尿病網膜症の時点で、蛍光眼底造影により血管のつまり部分を特定し、予防的に網膜光凝固を行えば、網膜症の重症化を防げます。

レーザー治療は痛みを伴うため途中でやめる人もいますが、途中でやめるのはおすすめしません。レーザー治療は失明を阻止する効果が非常に高いため、できる限り最後まで行いましょう。

硝子体手術

硝子体とは、眼球の真ん中を満たす透明なゼリー状の物質です。

網膜症が悪化すると、新生血管が網膜だけでなく硝子体にも作られます。

硝子体で新生血管が出血したり、硝子体に作られた新生血管や組織に網膜が引っ張られて網膜剥離を引き起こしたりすると、急激な視力の低下につながります。

失明に至る可能性が高くなるため、それを防ぐために行うのが硝子体手術です。硝子体手術では眼球に小さな穴をあけ、硝子体の中の出血や濁りなどを取り除きます。

網膜剥離がある場合は、網膜に適切な処置をします。手術時間はおおよそ1〜2時間程度です。

硝子体注射(抗VEGF療法・ステロイド療法)

硝子体注射は、糖尿病黄斑浮腫の治療に用いられます。

糖尿病黄斑浮腫とは、糖尿病網膜症による血流悪化のために、網膜の中心にある黄斑と呼ばれるところに生じるむくみのことです。

むくみの改善のため、VEGFの働きを抑える物質を硝子体に注射し、新生血管が作られるのを防ぎます。VEGFとは、新生血管が作られる際に関わる物質です。

ステロイドを注射して、むくみを改善させる場合もあります。一度の注射では効果が長続きしないため、1〜2か月に一度定期的に注射します。

糖尿病網膜症の治療で視力回復する?

糖尿病網膜症で失った視力は、基本的に元に戻りません。

上述したレーザー治療も視力回復のためではなく、これ以上視力を低下させないための予防的な治療です。

視力低下を防ぐために、次に解説する予防方法を日々行っていきましょう。

糖尿病網膜症の予防方法は?

糖尿病網膜症の予防には、糖尿病と同様に生活習慣の改善が最も効果的です。生活習慣とは、食事および運動です。

また、薬物療法を行っている場合は、薬の服用も網膜症の予防に繋がります。[3]

食事療法

食事による血糖コントロールは糖尿病治療における基本であり、糖尿病網膜症の発症にもかかわります。

食事は、1日の摂取カロリーの範囲内でバランスよく摂りましょう。1日の摂取カロリーは、年齢や活動量から個別に決まるため、かかりつけ医に相談してください。

摂取カロリーのうち、炭水化物を50〜60%、タンパク質を20%、残りを脂質(25%以下)とするのが基本です。

また、1日につき20g以上の食物繊維の摂取は、良好な血糖コントロールのために重要といわれています。

運動療法

ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動や、筋力トレーニングなどのレジスタンス運動を定期的に取り入れることは、糖尿病網膜症の予防のために大切です。

座りっぱなしの時間が長いと、糖尿病網膜症になりやすいとわかっています。

デスクワークで1日中座ることが多い場合は、こまめに休憩を取りストレッチなどで体をほぐすようにしましょう。

薬物療法

医師から処方されている薬がある場合は、決められたとおりに服用しましょう。

正しい薬の服用は、血糖値を安定させるため、糖尿病網膜症を予防できます。

しばらく血糖値が安定しているからといって、自己判断で薬を中止・増減しないように注意してください。

定期的な眼科受診

糖尿病網膜症は、糖尿病の期間が長いほど発症率が上がります。

とくに、2型糖尿病と診断された時点で、糖尿病になってからどのくらい経っているかは誰にもわかりません。したがって、2型糖尿病と診断された時点でまず眼科を受診しましょう。

また、糖尿病網膜症は初期のうちは症状がないまま進行します。早期発見により、視力の低下や失明を予防できるため、最低でも年に1回は眼科を受診するのが大切です。

Q&A

糖尿病による緑内障について、気になる疑問に答えます。

緑内障は糖尿病の眼の合併症として多くみられる?

糖尿病の眼の合併症として、糖尿病網膜症が多くみられます。さらに糖尿病網膜症が進行すると、緑内障を発症することがあります。

糖尿病網膜症の進行により、眼の中に新しく血管(新生血管)が作られるためです。

虹彩や毛様体と呼ばれるところに新生血管ができると、眼の水(房水)の流れが止まるため、眼圧が上がります。

眼圧が上がり視神経を圧迫し続けると、緑内障となり視力を失うことがあります。

緑内障はどんな人がなりやすい?

以下のような因子を持つ人は緑内障になりやすいです。[1]

  • 高齢である:40歳以上の人口のうち緑内障患者は5.0%[5]

  • 眼圧が高い

  • 血縁者に緑内障の人がいる

  • 血流が悪い

  • 低血圧である

  • 2型糖尿病である

その他、眼底検査など精密検査を受けると緑内障になりやすい性質かどうかわかります。

本記事の中で詳しく説明していますが、糖尿病は緑内障のリスクを上げます。緑内障は初期段階のうち、ほとんど症状がありません。

早期発見が失明を予防するため、40歳を越えたら定期的に眼科を受診しましょう。

糖尿病になると目が悪くなるのはなぜですか?

糖尿病で高血糖状態が続くと、眼のフィルムである網膜の血管がつまり、新しく血管が作られるようになります。

新しく作られる血管はもろいため、破れてタンパク質や脂肪などが流れ出し、網膜に染み付きます。その結果目が悪くなり、最悪の場合は失明に繋がります。

これは糖尿病網膜症といい、糖尿病患者が合併を避けたい疾患の一つです。

緑内障の一番の原因は何ですか?

緑内障の原因は、眼圧が高くなることです。眼圧が上がり視神経を圧迫して障害を起こすと緑内障となります。

眼圧の基準値は10〜20mmHgですが、視神経の強さには個人差があるため、眼圧が基準値内でも緑内障と診断されることが多いです。

糖尿病で目がチカチカするのはなぜですか?

糖尿病で目がチカチカするのは、糖尿病網膜症の症状である可能性が否定できません。

糖尿病で高血糖状態が続くと、網膜の血管が詰まったり、出血したりします。このとき酸素を送るために新たに作られる血管は、非常にもろいです。

そのため何度も出血を繰り返し重症化すると、網膜にシミができたり、網膜以外のところに血管ができたりして、黒い影のようなものが見えることがあります。

目がチカチカする症状がある場合、糖尿病網膜症が進行している可能性が高いです。一刻も早く眼科を受診しましょう。

まとめ

本記事では、糖尿病による緑内障、および糖尿病網膜症について解説しました。

糖尿病により高血糖状態が続くと、網膜の血管を傷つける糖尿病網膜症を発症します。そのまま放置しておくと緑内障などにつながり、最悪の場合には失明に至る危険な合併症です。

網膜光凝固により、網膜症の進行を予防できますが、一度低下した視力は元に戻りません。

網膜症の発症を防ぐためには、日々の生活習慣の改善や薬物治療に取り組み、血糖コントロールを良好にすることが大切です。

網膜症の初期段階では自覚症状がないため、定期的に眼科を受診しましょう。

参考文献

[1]日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会|緑内障診療ガイドライン(第5版)

[2]公益社団法人 日本眼科医会|糖尿病で失明しないために

[3]日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会|糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)

[4]ノバルティス ヘルスケア|糖尿病網膜症の有病率

[5]日本緑内障学会|報告 緑内障疫学調査 「日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査(通称:多治見スタディ)」報告

FastDoctor
ドクターの往診・オンライン診療アプリ
往診もオンライン診療も
アプリから便利に相談
App Storeからダウンロード
Google Playで手に入れよう
TOP医療コラム糖尿病による血管新生緑内障|3大合併症の網膜症に要注意!