インスリンってなに? インスリンの種類から看護まで解説

公開日: 2023/12/31 更新日: 2024/05/22
糖尿病は生活習慣病の一つとして有名なので、よく耳にする人も多いのではないでしょうか。 また同時にインスリンという言葉も聞いたことがあるかもしれません。 では、インスリンは自分の体内から分泌されているホルモンであることは知っていますか? 膵臓から分泌されるインスリンによって、血糖の値はコントロールされています。 しかしさまざまな要因により血糖値のコントロールが難しい場合、体外からインスリンを投与する必要があるのです。 この記事ではインスリンとはなにか?どのような人にインスリン治療が必要であるのかについて解説していきます。 後半はインスリンの種類について詳しく解説します。
目次

インスリンってなに?

インスリンとは膵臓から分泌されるホルモンです。

食事を摂ると「血糖値」とよばれる血液中のブドウ糖濃度が上昇します。

血糖値を正常な値に戻そうとするときに、膵臓から分泌されるのがインスリンです。

では、どのようにして血糖値が下がるのか、どのような人にインスリン治療が必要であるのかについて解説していきます。

血糖値はどうやって下がるの?

食べ物を摂取すると、そのほとんどが腸の中でブドウ糖へと変わります。

小腸から吸収されたブドウ糖は、血液の中へと移行します。

血液の中にブドウ糖が増えた状態が、「血糖値が上がった」状態です。

 血糖値が上がった時に登場するのが「インスリン」です。

インスリンには、血液中のブドウ糖を筋肉や脂肪に取り込ませることで血糖値を下げるという作用があります。

血糖値が高い状態になると、膵臓からインスリンが分泌され、インスリンの働きによって血糖値は下がります。このサイクルにより血糖値が高い状態が続くことはありません。

血糖値が高い状態になるのは食後だけではありません。

食事をしていなくても、寝ている状態でも、血糖値は変動します。

そのためインスリンは血糖値に合わせて常に分泌されていているのです。

このようにインスリンの分泌には食事に関係なく分泌する「基礎分泌」と、食事に合わせて分泌する「追加分泌」があります。

インスリンの基礎分泌

食事をとっていない状態、たとえば寝ている状態でも血糖値は上昇します。

これは人間が生きているために必要な、「心臓が動く」「呼吸をする」「胃腸が動く」という行為をおこなう際に血糖値が上昇するからです。

そのため、膵臓から分泌されるインスリンは食事に関係なく分泌し、血糖値が上昇するのを抑えています。

これを「基礎分泌」といいます。

インスリンの追加分泌

食事をすると食べ物が腸の中でブドウ糖に変わり、その後腸から血液中に移行します。

この働きにより血糖値は急激に上昇ししインスリンが分泌されることから、「追加分泌」と呼ばれています。

インスリン治療が必要なのはどんな状態?

インスリン治療が必要な状態には2つの原因があります。

  • インスリン分泌量の低下:膵臓の機能が低下してしまい、インスリンが十分に作られなくなってしまう状態。

  • インスリンの効果が発揮されない:インスリンは十分な量が分泌されているが、効果が発揮されない状態

 どちらかの原因により血糖値が高い状態が続くと、「糖尿病」と診断されます。

血糖値が高いまま放置するとどうなる?

血液の中に多く糖が存在すると、血管の内側が傷ついてしまいます。 

傷ついた血管を修復しようとして、徐々に血管の壁が厚く硬い状態となっていくのです。

この状態を「動脈硬化」といいます。

動脈硬化は全身の血管に起こるため、さまざまな臓器に影響が出ます。

糖尿病の合併症として有名なのは、「糖尿病性神経障害」「糖尿病性腎症」「糖尿病性網膜症」の三大合併症で、いずれも動脈硬化が関係しています。

ほかにも「心筋梗塞」や「脳梗塞」のリスクが高くなったり、血糖が高い状態が続くことで昏睡状態になる危険もあります。

糖尿病性神経障害

糖尿病性神経障害の原因は、高血糖による神経細胞の変化と、動脈硬化により神経細胞への血流が不足し栄養が届かなくなることです。

糖尿病性神経障害には大きく分けて2つの障害があります。 

  • 自立神経障害

内臓の働きかける神経に障害が起こるのが、自律神経障害です。

胃腸に障害が起こると下痢や便秘、胃もたれをしたり、泌尿器系に障害が起こると頻尿、失禁、勃起障害が起こることがあります。

他にも起き上がった際にふらついたり、低血糖の時に自覚症状を感じないことも自律神経障害の症状の一つです。 

  • 感覚・運動神経障害

全身の感覚・運動に関する神経に障害が起こるのが、感覚・運動神経障害です。

特に足先、足裏から症状が現れることが多いといわれています。

足裏になにかが貼り付いているような違和感を感じたり、砂利を踏んでいるような感覚、長時間しびれを感じる方もいます。

このように足の感覚が鈍くなっていると、ちょっとした傷から感染しても気づかないことがあるのです。

感染に気づかずにいると、足が壊死してしまい切断しなければいけない場合もあります。[1]

糖尿病性腎症

腎臓は無数の細い血管から成り立っています。

血糖が高い状態が続き、この血管が傷つくことで腎臓の働きが悪くなってしまいます。

糖尿病性腎症は症状がある程度進行するまで自覚症状がでません。

腎臓の働きが悪い状態が続くと腎不全となり、血液透析が必要になるケースもあります。[2]

糖尿病性網膜症

網膜とはカメラのフィルムの役割をすると言われており、眼の中に入ってきた光を脳の視神経に伝える役割をしています。

網膜には毛細血管とよばれる細い血管が多数存在しており、この血管から酸素や栄養を受け取っています。

しかし血糖が高い状態となり動脈硬化を起こすと、この血管が閉塞したり出血をしてしまうのです。

その結果視力低下や、網膜剥離とよばれる失明状態になってしまうことがあります。[3]

インスリンの種類一覧 特徴とともに紹介

インスリンは大きく分けて3つに分類でき、そこからさらに6つに分類されます。

追加分泌を補うインスリン製剤

速効型インスリン

超速効型インスリン

基礎分泌を補うインスリン製剤

中間型インスリン

時効型溶解インスリン

追加分泌と基礎分泌の両方を補うインスリン製剤

混合型インスリン

配合溶解インスリン

これらのインスリンが注射後にどのようなタイミングで作用が発現するか、作用持続時間については以下の図を参照してください。

 インスリンの種類や名前について、詳しくご紹介します。インスリン製剤の早見表も簡単にですが作成したので、自身がインスリン製剤を使用しているのであれば参考にしてみてください。

[4]引用 サノフィ株式会社 目からウロコの糖尿病治療!!

追加分泌を補うインスリン製剤

食事により急激に上昇する血糖値に対して使われるインスリン製剤です。

 追加分泌を補うインスリン製剤には2種類あります。

  • 速効型インスリン

  • 超速効型インスリン

それぞれについて解説していきます。

速効型インスリン(レギュラーインスリン)

作用発現時間は30分~1時間と短いため、投与タイミングは食事30分前となります。

注射後30分以内に食事をとらないと低血糖になる可能性があるため、注意が必要です。

速効型インスリンとして発売されている成分は2種類です。

 

一般名

商品名

作用発現時間

最大作用時間

作用持続時間

生合成ヒト中性

インスリン

ノボリンR注

約30分

1~3時間

約8時間

ヒトインスリン

ヒューマリンR注

30~1時間

1~3時間

5~7時間

 超速効型インスリン

作用発現時間は5~20分と、速効型よりもさらに短くなっています。

そのため注射のタイミングは食事の直前、もしくは食事開始後20分以内となっています。

作用発現時間が速効型よりも更に短いため、投与後は食事をすぐに摂らないと低血糖になる可能性が

あります。

超速効型インスリンとして発売されている成分は3種類です。

一般名

商品名

作用発現時間

最大作用時間

作用持続時間

インスリン アスパルト

フィアスプ注

5~15分

1~3時間

3~5時間

ノボラピッド注

10~20分

1~3時間

3~5時間

インスリン アスパルトBS注

10~20分

1~3時間

3~5時間

インスリン リスプロ

ルムジェブ注

5~15分

45分~1.5時間

3~5時間

ヒューマログ注

15分未満

30分~1.5時間

3~5時間

インスリン リスプロBS注

15分未満

30分~1.5時間

3~5時間

インスリン グルリジン

アピドラ注

15分未満

30分~1.5時間

3~5時間

基礎分泌を補うインスリン製剤

食事をとっていない状態でも血糖値は上昇するため、常に膵臓からインスリンが分泌されています。

この空腹時血糖を下げる役割を果たすのが、基礎分泌を補うインスリン製剤です。

 基礎分泌を補うインスリン製剤には2種類あります。

  • 中間型インスリン

  • 時効型溶解インスリン

それぞれについて解説していきます。

中間型インスリン(NPHインスリン)

作用発現時間は製剤によって異なりますが、作用持続時間は18~24時間となっています。

注射薬の性状が白色の懸濁液となっていて、成分が沈殿しているためよく振ってから使用します。

中間型インスリンとして発売されている成分は2種類です。

一般名

商品名

作用発現時間

最大作用時間

作用持続時間

生合成ヒトイソフェンインスリン

ノボリンN注

約1.5時間

4~12時間

約24時間

ヒトイソフェンインスリン

ヒューマリンN注

1~3時間

8~10時間

18~24時間

持効型溶解インスリン

作用持続時間は約24~42時間と長く、1日の血糖値を全体的に下げる働きをします。

そのため最大作用時間はなく、作用が発現してからは一定の効果が確認される製剤となります。

時効型インスリンとして発売されている成分は4種類です。

一般名

商品名

作用発現時間

最大作用時間

作用持続時間

インスリン デグルデク

トレシーバ注

定常状態で作用が発現

明らかなピークはなし

42時間

インスリン デテミル

レベミル注

約1時間

3~14時間

約24時間

インスリン グラルギン

ランタス注

1~2時間

明らかなピークはなし

約24時間

インスリン グラルギンBS注

1~2時間

明らかなピークはなし

約24時間

追加分泌と基礎分泌の両方を補うインスリン製剤

追加分泌を基礎分泌のどちらも補う効果があるインスリンです。

薬の配合によりさまざまな種類があり、患者それぞれに合わせた薬が処方されます。

 薬の種類は2種類です。

  • 混合型インスリン

  • 配合溶解インスリン(時効型溶解インスリン)

それぞれについて解説していきます。

混合型インスリン

速効型もしくは超速効型インスリンと中間型インスリンを決められた割合で配合しているインスリン製剤です。

混合している製剤の種類によって、作用時間が異なります。

そのため製剤の種類によって、投与するタイミングが食前30分になるか、食直前になるかが分かれます。

成分が沈殿するタイプの薬剤となるため、使用前によく振ってから投与します。

混合型インスリンとして発売されている成分は5種類です。

一般名

商品名

作用発現時間

最大作用時間

作用持続時間

特記事項

二相性プロタミン結晶性インスリンアスパルト

ノボラピッド30ミックス注

10~20分

1~4時間

約24時間

速効型と中間型のインスリンアナログを3:7の割合で配合

ノボラピッド50ミックス注

10~20分

1~4時間

約24時間

超速効型と中間型のインスリンアナログを5:5の

割合で配合

生合成ヒト二相性イソフェンインスリン

ノボリン30R注

約30分

2~8時間

約24時間

速効型と中間型のインスリンを3:7の割合で配合

イノレット30R注

約30分

2~8時間

約24時間

速効型と中間型のインスリンを3:7の割合で配合

インスリンリスプロ混合製剤-25

ヒューマログミックス25注

15分未満

30分~6時間

18~24時間

インスリンリスプロ(超速効型)と中間型インスリンリスプロを25:75の割合で配合

インスリンリスプロ混合製剤-50

ヒューマログミックス50注

15分未満

30分~4時間

18~24時間

インスリンリスプロ(超速効型)と中間型インスリンリスプロを50:50の割合で配合

ヒト二相性イソフェンインスリン

ヒューマリン3/7注

30分~1時間

2~12時間

18~24時間

速効型水溶性インスリンと中間型イソフェンインスリンの混合製剤

配合溶解インスリン(時効型溶解インスリン)

配合溶解インスリンとは、「超速効型インスリン」と「持続型インスリン」を混合した製剤です。

両方の作用発現時間に効果を発揮します。

作用時間は持続型インスリンとほぼ同じとなります。

混合溶解インスリンとして発売されている成分は1種類のみです。[5][6]

一般名

商品名

作用発現時間

最大作用時間

作用持続時間

インスリン デグルデク/インスリン アスパルト

ライゾデグ配合注

10~20分

1~3時間

42時間

インスリンの使い分け方法は?

インスリンの種類、注射回数、時間は、使用する方の状態に合わせて医師が決定します。

その方の血糖値の状態、必要なインスリンの種類、生活や食事量などに合わせて、それぞれオーダーメイドでの処方となっているのです。

 インスリンの種類に関しては、基礎分泌を補充する必要がある方は作用時間の長い中間型インスリンや時効型溶解インスリンが選択されます。

追加分泌を補充する必要がある方には速効型や超速効型インスリン、基礎分泌、追加分泌ともに補充する必要がある方は混合型や配合溶解インスリンが選択されます。

また、1種類のインスリンを使用する方もいれば、いくつかのインスリン製剤を組み合わせて投与している方もいるのです。

このようにインスリンは投与パターンが決まっていることはなく、その方に合わせたオリジナルの処方をしていきます。

インスリン使用時の看護 注意するポイントとは?

インスリンを使用する際の看護の観点から、注意するポイントについて解説します。

気を付けなければいけない点は2つ、「低血糖」と「保管方法」です。

 低血糖

インスリン製剤を使用する際に最も気を付けなければいけないことは「低血糖」です。

とくに作用発現時間が短い速効型、超速効型、それらが配合されている混合型、配合溶解インスリン製剤を使用する場合には注意が必要となります。

インスリン投与前に注意することは、医師より指示されている投与タイミングが守られているか、食事が摂れる状態かを確認することです。

 低血糖の代表的な症状はこちらです。

  • 空腹感

  • 冷や汗、発汗

  • 手の震え

  • 動悸

  • 体のだるさ

  • 嘔気

 このような症状が出た場合は、すぐにブドウ糖を摂取しましょう。

手元にブドウ糖がない場合は、砂糖やブドウ糖の入った飲み物でも代用ができます。

保管方法

使用前のインスリン製剤は冷蔵庫に保存をします。

凍結すると薬剤が変化したり、注射器の故障につながるため注意しましょう。

使用中のインスリン製剤は直射日光や高温を避け、30度を超えない場所もしくは冷蔵庫で保管をします。

使用期限にも気を付けましょう。

Q&A

インスリンは二種類ありますか?

インスリンは効果の違いで、6種類に分類されます。

追加分泌を補うインスリン製剤

速効型インスリン

超速効型インスリン

基礎分泌を補うインスリン製剤

中間型インスリン

時効型溶解インスリン

追加分泌と基礎分泌の両方を補うインスリン製剤

混合型インスリン

配合溶解インスリン

ヒューマリンRとNの違いは何ですか?

ヒューマリンのあとについている英単語の「R」は速効型をしめすRegularの頭文字になります。

「N」は中間型をしめすNPHインスリンの頭文字となります。

同じヒューマリンでも、ヒューマリンRは作用発現時間の短い速効型インスリン、ヒューマリンNは作用持続時間の長い中間型インスリンです。

 超速効型インスリンと速効型インスリンとの違いは何ですか?

一番の違いは作用発現時間です。

速効型は作用発現時間が30分~1時間、超速効型は10~20分となっています。

そのため投与タイミングも速効型は食事の30分前、超速効型は食事の直前と異なります。

 糖尿病のインシュリンにはどんな種類がありますか?

効果がでるタイミング、作用や持続時間の違いで6種類のインスリンがあります。 

  • 速効型インスリン
    作用発現時間が30分~1時間

  • 超速効型インスリン
    作用発現時間が10~20分

  • 中間型インスリン
    作用持続時間が18~24時間

  • 持効溶解型インスリン
    作用持続時間が約24時間

  • 混合型インスリン
    速効型もしくは超速効型インスリンと中間型インスリンを混合したインスリン製

  • 配合溶解インスリン
    超速効型インスリンと持続型インスリンを混合したインスリン製剤

まとめ

この記事ではインスリンとはなにか、インスリンの種類、投与時に注意するポイントについて解説していきました。

 さまざまな原因で血糖のコントロールが難しい場合、体外からインスリンを投与する必要があります。

投与するインスリンの特徴を知ることで、どのようなことに気を付けなくてはいけないかが分かります。

特に低血糖はどのインスリンにも共通して注意しなければいけない症状です。

食事量が少ない、運動量や活動量が多い場合など、いつもと少し違う生活をすることで低血糖の危険が出てきます。

「いつもと少し違うな」という体のサインを見逃さないよう注意していきましょう。

参考文献

[1] 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター 神経障害

[2] 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト 糖尿病性腎症

[3] 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター 網膜症

[4] サノフィ株式会社 目からウロコの糖尿病治療!!

[5] 糖尿病リソースガイド インスリン製剤 

[6] 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター 血糖値を下げる注射薬

 

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