ADHD(注意欠陥多動性障害)とは?症状や治療について解説

公開日: 2024/01/08 更新日: 2024/05/22
発達障害は子供の頃に発見されることが多いですが、近年は子供の時に発達障害がわからず、大人になってから初めて診断される方も増えてきています。 脳は大脳、中脳、小脳に分けられ、大部分が大脳に占められています。 その中でも前頭葉は思考、判断、行動する機能を司る部分です。 前頭前野は、前頭葉の大部分を占めており、人としての行動をするにあたって重要な部分を司ります。 その機能調節に偏りがある状態が発達障害です。 ここではその発達障害の一つであるADHD(注意欠如・多動性障害)について解説していきます。
目次

ADHD(注意欠陥多動性障害)とは

ADHD(注意欠陥多動性障害)とは、発達障害の一つです。

発達障害には大きく分けてADHD(注意欠陥多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)、LD(学習障害)の3つがありますが、その中でもADHDは注意欠如、多動・衝動性を特徴とする発達障害です。

ADHDの原因は?

ADHDの原因の一つはノルアドレナリン、ドパミンなどの神経伝達物質が少ないことと言われています。

これらの神経伝達物質とは、神経細胞から神経細胞に刺激、情報を伝えるのですが、この神経伝達物質の量が少ないことで刺激や情報が十分に伝えられていないのでは無いかと言われています。

また、その他にADHDの症状が出る原因の一つではないかと考えられているのは、大脳の前頭前野で、思考や判断、記憶することや集中、感情の制御、行動の抑制などがあり、そこに偏りがあることで不注意や多動衝動性が出てくるとも言われています。

ただし、ADHDの原因としてははっきりと断定されているものはなく「可能性が高い」というものであり、その原因としては研究が進められているのが現状です。

ADHDの症状は?

ADHDでは「不注意」「多動」「衝動性」の3つを特徴とする障害です。

それぞれを詳しく見ていくと

  • 不注意:すぐに気が散ってしまう、集中できない、忘れ物が多いなど年齢に見合わない
  • 多動:じっとすることができない、落ち着かないなど
  • 衝動性:欲求のままほしいものを取ってしまう、思いついたまますぐに行動してしまう

などの症状があげられます。

具体的な例をいくつか挙げてみますと、

〈不注意〉

  • 繰り返し何度も必要な物(例えば文房具など)をなくしてしまう、約束なども忘れてしまう
  • 宿題など期限を守れない

〈多動性〉

  • 宿題を使用としていても他のもの(おもちゃやゲーム)に興味をとられてしまい集中できない
  • 授業中など、じっと座っていることが出来ずに教室内をウロウロと歩いてしまう
  • おもちゃが気になってそのおもちゃを手に取る→他のおもちゃが目に入る→すると手に取ったばかりのおもちゃをポイっとして、目に入ったおもちゃを取りに行く→遊ぶでもなく、また他のおもちゃが目に入ればそこに注意が行く……と同じことを繰り返す

〈衝動性〉

  • 全校集会など静かにしないといけない状況でもお喋りをずっとし続けてしまう
  • 友達との会話等で話を最後まで聞けずに遮って自分から話し出してしまう

などの状況となります(これはごく一部の状況例です)。

年齢が上がってきてもこのような状況がずっと続いてしまうため、日常生活に支障が出てきてしまうこともあります。

ここに挙げた具体例は子供の状況例ですが、大人では

  • 周囲の人や物などにより気が散ってしまい、仕事に集中できない

  • 様々なことを同時に進めていくことができない

  • 衝動買いなどが多い

などの状況がADHDの症状により起こり得ます。

子供のADHD、大人のADHDの特徴は?

ADHDでは子供の時と大人の時でその症状などに特徴があるのでしょうか。それぞれ解説します。

子供のADHDの特徴は?

ADHDの人は、その症状がさまざまな場面で行動として表れてきますが、子供でははじめは落ち着きがない、興味の対象に向かって突然走っていくなど「多動、衝動性」の症状が目立つことが多いと言われています。

それが成長するとともに、不注意の症状が目立ち始めてきます。

具体的には、「不注意」の特性で現れる行動は「テストでのミスが多い」、「課題などを計画的にできない」、「片付けができない」などです。

一方で、「多動性・衝動性」の特性としては「学校などで離席が多くうろうろとしてしまう」、「静かにしなければならないところで話続けてしまう」などの行動として表れてしまいます。

これらの行動は問題行動としてみなされかねないものもあるのです。

そのためうまく友達や先生等との人間関係もうまくいかず、不登校になってしまったり、いじめに関わってしまったりする(加害者、被害者ともに)こともあります。

大人のADHDの特徴は?

ADHDは必ず小児期に始まると言われますが、実際には成人になるまで気づかれないというケースもあります。

この場合、成人となっても治療介入ができていないため、ADHDの症状が行動となって現れます。

大人では多動、衝動性の症状は目立たないことが多い(内面の落ち着きのなさ等が残ることはある)ものの、不注意の症状は残ることが多いです。

ADHDの症状には人間関係、社会や日常生活において問題行動とみなされることも多くあります。

例えば、遅刻が多い、仕事などのスケジュール管理ができない、会議などでもじっとできない、思ったことをそのまますぐに言ってしまうため、余計な一言となってしまうなどがそれにあたるケースです。

大人になることで子供の時と異なり、これらの行動が許されないことも多く、本人の責任も大きくなってしまうため仕事などで支障をきたしてしまうというケースも出てきます。

そのため、それらが本人の負担、自責につながり、二次的にうつ病等を発症するケースもあるのが現状です。

ADHDには男女で特徴があるのか

男性のADHDとは?

男性の場合は「多動性」、「衝動性」が優位になることが多いと言われます。

そのため「じっとしていられない」、「離席してウロウロしてしまう」、「衝動的に話をしすぎる」など、問題行動として目立つ症状が多いため、「不注意」が優位となるケースに比べて気づかれやすいと言えるでしょう。

ただし、これらの症状により周囲とトラブルになるケースも多いと言えます。

ただし男性でも不注意が全面に出るケースもあり、トラブルがあまりないため気づかれにくいことはあります。

女性のADHDとは?

女性の場合は多動、衝動性が目立たず、不注意が目立つ傾向が強いケースが多いと言われています。

この「不注意」の症状は、「話しかけても聞いていないように見える」、「最期まで物事を行うことができない」、「整理整頓が苦手」などです。

そのため、これらの症状が本人の性格などによるものと判断されてしまい、結果として発達障害の発見が遅れる、気づかれずに大人となるということにつながってしまいます。

そのため、そのような環境で育った結果として自己肯定感が低くなってしまうこともあるのです。

また、女性同士の話にもなかなかついていけない、共感できないなどの状況となってしまい周囲になじめず、結果としてうつ病や不安障害等を発症するケースもあります。

ADHDは見た目(顔つき)でわかる?

ADHDでは特徴的な顔つきがあると言われることがあります。それは

  • 実際の年齢よりも幼く見える

  • 肌の色が白い

  • 目が離れている猫型の顔

  • 歯並びがよくない など

が挙げられます。しかしながら当てはまらないケースもありますし、これらについてエビデンスはありません。

ADHD(注意欠陥多動性障害)の診断について

ADHDの診断はどうするのか

ADHDの診断には、米国精神医学会が定義する精神疾患の診断基準・診断分類を使用します。

この診断基準では不注意の9つの症状及び、多動性・衝動性の9つの症状が示されています。これらを確認し、

  • 「不注意」「多動、衝動性」の同じグループ内で6つ以上の症状が半年以上続くこと

  • 発達水準よりも著しい

  • 日常生活、社会生活で支障をきたしていること

  • 12歳になる前から行動が存在している

  • 少なくとも2つ以上の場面でこの行動が現れていること

ということを満たすことが診断基準となるのです。また、どちらのグループの症状が6つ揃っていたかによって、「不注意優勢型」「多動性・衝動性優勢型」と判断されます。

ただし、この診断基準一つで「ADHDである」と診断するのではなく、問診やその人の行動観察、心理検査などを行います。

そして他の疾患ではないか、なども含め全体を評価し、それらを総合的に見て最終的な診断となるのです。

ADHDの診断を行うには1回だけの受診では困難であり、複数回の受診を経てやっと診断となることが通常です。

今まで診断されていなかったため周囲との関係がうまくいっていなかなかった場合、ADHDと診断されることは、「ADHDと診断されることで様々な対策ができる」、「周囲の理解を得られる」などによりADHDの症状に伴う問題対しても一歩前進することができると考えられます。

しかしながら「ADHDである」と診断されること自体が本人の負担となり、落ち込んでしまう、鬱や不安障害など他の疾患を発症してしまうということもゼロではありません。

そのため、ある程度自身の気持ちなどを主治医に相談し、整理してからの診断のほうが良いかもしれません。

ADHDに気づくには?チェック項目は?

実際の診察では、その人の普段の行動などを問診しADHDかどうかなどを判断していきます。

  • ケアレスミスが多い

  • 何かをするときに、詰めが甘くて最後までやり遂げることができないことがある

  • 計画立てた行動ができない

  • 長時間じっと座っていられない(手足などを動かしてしまう)

  • 何かをせずにいられなくなることがある

  • 仕事をする時不注意な間違いをする、集中し続けられない

  • 人の話をしっかり話を聞くことができない

  • 忘れ物が多い、

  • 周囲の状況で気が散りやすい

  • 一方的に相手に話をしてしまう/話し過ぎる

  • 話を最期まで聞かずに話し始めてしまう

  • 何かの順番を待つことができない

などの行動が多く認められる場合、そしてそれが日常生活の妨げになっている場合等は一度受診を検討してもいいかもしれません。

ADHD(注意欠陥多動性障害)の治療について

ADHDの治療としては大きく3つほど挙げられます。周囲の環境を整えること、自身の行動を把握し対策すること、薬による治療です。

環境整備について

周囲にADHDに対する理解を得て、様々な配慮をお願いすることは必要となってきます。

作業時間を短時間に区切ったり、周囲に気が散りにくい(刺激の少ない)環境を用意する等の対策が挙げられます。

また、自身でも仕事上で工夫することが必要です。

例えば予定などを忘れやすいのであればリマインダーを利用するなどの対策を行うことでADHDの症状に対する対策を取ることができます。

また、各種支援機関を活用することなどの方法も取れる対策の一つです。

なお、ADHDは発達障害の一つであり、「精神障碍者保健福祉手帳」を取得する対象となっています。認定を受けることで行政の支援サービスを受けることもできるのです。

ただし、この手帳を取得するには「長期にわたって精神疾患があり、生活に制限が出ている」ことなど条件があるため、主治医に相談することが必要です。

行動療法について

行動療法では、感情や行動を自身でセルフコントロールすることができるようにすることが目標です。

例えば、「あいさつの仕方やメモの取り方など具体的な訓練を行い、自身の行動を自身で理解していく」などを行っていきます。

行動療法はカウンセリングで行いますが、個人で行う場合と集団で行う場合があります。

個人でのカウンセリングはそれぞれの患者さんにあわせたオーダーメイドです。

一方で、集団で行う場合は、何人かで集まって悩みを共有し、それぞれに表れているADHDの症状について話し合うことで、理解を深めることが目的です。

薬物療法について

現在ADHDで保険適応となっているのは「メチルフェニデート」という薬です。

ADHDでは、前頭前野の働きの偏り以外に神経伝達物質の不足が原因ではないかと言われています。そのためこの薬で神経伝達物質の分泌等を改善し治療を行います。

ただし、この薬は専門の医療機関でのみ処方が可能な薬です。

この薬はADHDに対して効果があると言われ、実際に服用している間はADHDの症状が抑えられます。

行動の抑制ができるようになり、「集中できるようになった」「一旦考えてから行動することができるようになった」「じっと落ち着いて座ることもできるようになった」などの効果がでてきます。

ただ、これはADHDの特性を完全になくすという薬ではありません。

そのため、薬の効果がある間はいいのですが、薬の効果が切れてしまうと、また同じように症状が出てきてしまいます。

薬の効果は一時的なものではありますが、たとえ一時的であったとしてもADHDの症状を抑えるということが出来るというのは大きなメリットです。

例えば、子供であればその「一時的に行動が抑制できる期間」に学習も進み、自身の行動を見つめることができるようになります。

そのため、社会性を身に着けることができるケースもあるのです。

勉強や仕事に関しては、それぞれに集中できるようになるため、勉強、仕事の成績を上げることができます。これだけでも大きなメリットと言えるでしょう。

また、ADHDの人ではADHDに伴う症状、人間関係や社会生活が困難となることでうつ病や不安障害などの精神疾患を発症してしまうケースもあります。

その場合は、それぞれの疾患に対して抗不安薬・抗うつ薬などを使用し治療を行っていくことになります。

ADHD(注意欠陥多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム障害)の違いは

ASDとADHDはともに「発達障害」に位置づけられます(発達障害にはその他、「学習障害(LD)」もあります)。

ADHDが「不注意」「衝動性」「多動性」の3つを特徴とするのに対して、ASDは「対人関係の困難さ」や「限定された行動、興味、反復行動」、「感覚過敏(鈍麻)」を特徴とします。

発達障害では、ケースによってこれらの3つが一部重なりあう形など、併存するものも認められます。

ASD(自閉症スペクトラム障害)とは

ASDは上に述べた通り発達障害の一種です。

以前は言葉の遅れがあるなし等の症状により、「自閉症」、「アスペルガー症候群」という形に分けられていましたが、これらの障害はおなじ特性を認めるため、現在は同じ一つの障害で症状が異なるだけであると考えられるようになりました。

その特性は「対人関係や社会的なやりとりが苦手である」「こだわり行動がある」という2つの特徴です。

具体的には、

〈対人関係困難〉

  • 視線が合わない、人のまねをしない、後追いをしない、人見知りをしない、身体に触れられるのを嫌う、など他者に関心を示さない
  • また、相手の立場になって考えるのが苦手
    など

〈強いこだわり行動〉

  • 何かを行うにあたっての手順ややり方が決まっており、それに固執する(この手順、やり方でないとダメ、など)
  • 興味を持ったことにのみかなり深い関心を示す
  • 同じ行動を繰り返す
    など

〈感覚過敏/鈍麻〉

  • 視覚
  • 触覚
  • 味覚
    など

などの症状を認めます。

ASDの原因は脳の機能障害と考えられています。

そのためこれらの症状,特性が現れていたとしても、「性格」とは異なりもって生まれた「特性」であり、周囲の環境や育て方、育ち方によるものではありません。

また、ASDの人はこれらの特性により日常生活などに支障をきたすこともあり、周囲のサポートなどが必要なケースも多々認められます。

Q&A

ADHD(注意欠陥多動性障害)とはどんな症状ですか?三大特徴は?

ADHDは不注意、多動性、衝動性を三大特徴とする障害です。

年齢にそぐわずに忘れ物が多い、予定を忘れてしまう、スケジュール管理ができない、ケアレスミスがおおいなどの不注意の症状が出てきます。

また、じっとしていられないでうろうろする、手足を動かす、相手が話し終わる前に話し始めて一方的に話続けてしまう、欲求のまま衝動的に行動してしまうなどの症状が現れることがあります。

ADHDの恋愛の特徴は?

ADHDではその特徴である「不注意」により、特別な記念日やデートなどの日程を忘れてしまうことがあります。

また、相手の気持ちが十分にわからず、その時に思ったことをそのまま衝動的に発言、行動してしまうことがあり、結果として自分の意見だけを通してしまうこともあります。

そのためそれらによって場合によってはトラブルを起こすことがあるのです。

また、結婚後であれば金銭管理やスケジュール管理が苦手であり、家事育児などの段取りもうまくいかない、など支障が出てしまうこともあり得るでしょう。

ADHDの話し方の特徴は?

ADHDでは欲求のまま衝動的に思ったことを話してしまうため、ずっと自分の話をしてしまう、早口で延々と話し続けるなど、会話が一方的になることがあります。

話している間に話したいことが次々と出てくると、そのまま話を続けてしまうため、次々と話の内容が変わり、さらに早口で延々と一方的に話し続けてしまうのです。

そして話している間に様々な内容が出てきてしまうため、初めに話そうとしていた内容がわからなくなることもあります。

その他、同じように思ったことを衝動的に話すため、相手の会話を遮って話し始めてしまうこともあるのが特徴です。

また、どのぐらい人がいるか、どのぐらい距離が離れているかなどの周囲の状況に応じた話し方がしにくいため、大きな声で話してしまう方もいます。

ADHDの苦手なこととは?

ADHDの人はその特性により整理整頓やスケジュール・タスク管理が苦手です。

また、自身の興味があることには取り組むことができますが、興味関心のないことには取り組むことが苦手です。

周囲に刺激があると気が散ってしまうため、物事に集中することも苦手とします。様々なことを同時に行っていくマルチタスクも苦手なものの一つとなります。

その他、多動性・衝動性のため、じっと落ち着いていることや順番待ちなども苦手なことが多いです。

ADHDの性格の特徴は?

ADHDは「不注意」「多動性」「衝動性」を特徴とする発達障害であり、これは性格ではありません。

ただし、これらの特徴により、周囲とうまくいかない、日常生活に支障が出るということも多く、自己肯定感が低く育ってしまうというケースはあります。

まとめ

ADHDとは、発達障害の一種でありADHDの人は多かれ少なかれ「生きづらさ」を感じていることが多いのです。

ADHDは薬や行動療法、カウンセリングなどである程度治療が見込めるため、早期に気付いて治療につなげていくことが重要です。

周囲だけでなく、大人になって本人がおかしいと思ったら一度受診してみても良いでしょう。

「もし違ったら」「発達障害なんて言われたくない」などと考える人もいるかもしれません。

ですが、もし違ったらそれはそれで安心材料もしくは他の障害や病気が見つかるきっかけになるかもしれませんし、診断がつけば今までの「生きづらさ」も理由があったと納得できます。

そして治療につなげることでその「生きづらさ」も良くなっていくのであればそれは大きなメリットとなるのではないでしょうか。

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