睡眠障害の種類と不眠症の薬物療法についてくわしく解説!

公開日: 2023/12/30 更新日: 2024/05/22
「夜眠れなくてつらい」 「不眠症の薬は飲み続けて大丈夫?」 コロナ禍による生活様式の変化の影響もあり、睡眠障害に悩まされる人が増えています。 不眠症における薬物療法は正しく行う必要があります。 しかし、睡眠薬への不安、誤解もあり治療への理解は低い傾向にあります。 この記事では、睡眠障害についてや医療用の不眠症薬、市販の睡眠改善薬について解説しています。 不眠症の適切な薬物療法のために、正しく薬物療法について理解し、効果的な治療を行いましょう。
目次

睡眠障害の種類と不眠症の診断基準

睡眠障害は睡眠に影響を及ぼす病気の総称です。日本では5人に一人が睡眠障害に悩まされているといわれています。

代表的な睡眠障害について、それぞれ確認していきましょう。

不眠症

睡眠障害の中で一番イメージされやすいのが不眠症です。

みなさんもなかなか寝付けなかったり、夜中に目が覚めてしまう経験があると思います。

不眠症はそういった症状が慢性的に続き、日常生活に支障がでてしまう状態です。

不眠症以外の睡眠障害

睡眠障害には、不眠症のほかに過眠症やレストレスレッグス症候群、周期性四肢運動障害、睡眠時無呼吸症候群などがあります。

不眠症の治療を行い改善しない場合には再診断の必要性があります。

不眠症の診断基準

不眠の代表的な診断基準としては「睡眠障害国際分類」が用いられます。

自分の症状を睡眠障害かチェックしてみましょう。

  • 入眠困難、睡眠維持困難(中途覚醒)、早朝覚醒、慢性的に非回復性または睡眠の質の悪さに訴えがある。

  • 小児では睡眠困難がしばしば養育者から報告され、就寝時のぐずりや一人で眠れないなどのこともある。

  • 上記の睡眠困難は、睡眠をとった適切な状況、環境にかかわらずしばしば生じる。

  • 患者は夜間睡眠困難と関連した日中機能障害を以下の一つの形で報告する。

  1. 疲労感、不快感

  2. 注意力、集中力、記憶力の低下

  3. 日中の眠気

  4. 社会的、職業的機能低下、または学業低下

  5. 気分の障害またはいらいら感

  6. 動機付け(モチベーション)、活動性、積極性の減弱

  7. 仕事のミスや運転中の事故のおこしやすさ

  8. 睡眠不足による緊張、頭痛、胃消化器症状

  9. 睡眠についての心配、悩み

参考:「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインー出口を見据えた不眠医療マニュアルー」 2013年10月22日改定 三島和夫ほか 4ページ

上記に当てはまる場合は、不眠症の可能性があるため、医師に診断してもらいましょう。

睡眠障害の薬物療法について

今回は睡眠障害の中でも、不眠症に用いられる医療用の不眠症薬について解説します。

不眠症の薬物治療は、不眠症を以下のように分類し、症状に合わせ、作用時間の異なる薬を選択します。

  • 入眠困難型

  • 睡眠維持障害型(中途覚醒、早朝覚醒)

睡眠薬の種類

睡眠薬は「脳の活動を抑制する薬」と「生理的な睡眠を促す薬」の、2種類に分けることができます。

以前は脳の活動を抑制することで、催眠作用をもたらす薬が主流でした。バルビツール酸、非バルビツール酸が使用されていました。

しかし、依存性が高くリスクが高いため、より安全性の高い、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系に主流がシフトしてます。

近年は、より安全性の高い薬が登場しました。生理的で自然な睡眠に近づけると言われているためです。

睡眠、覚醒にかかわる体内の生理的な物質の働きを調整するメラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬が、現在の不眠症の薬物療法において一番最初に検討される薬です。

種類

特徴

依存性

注意点

バルビツール酸
非バルビツール酸

脳の活動抑制による催眠効果

高い

高い依存性、中毒性などリスクが高く、現在は使用頻度が低い

ベンゾジアゼピン

非ベンゾジアゼピン

脳の活動抑制による催眠効果

あり

持ち越し効果、筋弛緩作用など

メラトニン受容体作動薬

生理的な睡眠を促す

少ない

眠気、頭痛など

オレキシン受容体拮抗薬

生理的な睡眠を促す

少ない

悪夢、金縛りなど

抗不安薬

抗不安薬の中で催眠効果の強い薬を使用

あり

不眠症に対する治療効果が十分に検討されていない薬もある

参考「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインー出口を見据えた不眠医療マニュアルー」 2013年10月22日改定 三島和夫ほか 

睡眠薬・睡眠導入剤ランキング|強さはどう決まる?

睡眠薬の強さの単純な比較は難しいです。しかし、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系の薬は効果の長さ(時間)をもとに評価されることがあります。

短時間で作用するものは、寝つきが悪い入眠困難型の不眠症に使用されます。

一方、夜中に目が覚めてしまう中途覚醒型、朝早くに目が覚めてしまう早朝覚醒型の不眠症に使用されるのは、長時間作用するものです。

睡眠導入剤という言葉をよく聞きますが、睡眠薬の中で効果が短いものが一般的に睡眠導入剤と呼ばれています。

以下の表は、半減期をもとに超短時間型、短時間型、中間作用型、長時間作用型の順にまとめた不眠症薬一覧です。

半減期に基づく作用時間順の不眠症薬リスト

種類

一般名

商品名

作用時間

半減期

非ベンゾジアゼピン系

ゾルピデム

マイスリー

超短時間作用型

2

ゾピクロン

4

エスゾピクロン

ルネスタ

5~6

ベンゾジアゼピン系

トリアゾラム

ハルシオン

2~4

エチゾラム

デパス

短時間作用型

6

ブロチゾラム

レンドルミン

7

リルマザホン

リスミー

10

ロルメタゼパム

エバミール

ロラメット

10

フルニトラゼパム

サイレース

中間作用型

24

エスタゾラム

ユーロジン

24

ニトラゼパム

ベンザリン

ネルボン

28

クアゼパム

ドラール

36

フルラゼパム

ダルメート

長時間作用型

65

ハロキサゾラム

ソメリン

85

参考「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインー出口を見据えた不眠医療マニュアルー」 2013年10月22日改定 三島和夫ほか 36ページ

こちらの表は、あくまで効果の長さを比較評価したものです。

効果時間の長いものほど、次の日に眠気を残しやすくなる持ち越し効果に注意が必要です。

今回はメラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬は、作用機序が異なるため比較から外しています。

睡眠薬を処方してもらうには?

不眠症薬をもらうためには、まずは内科、精神科、心療内科などに受診しましょう。治療が必要だと診断された場合に処方箋が発行され、病院・薬局などで薬をもらえます。

自分に合った薬をもらうには、自分の睡眠状況・ライフスタイル・既往歴などを先生にしっかり伝えるようにしましょう。

不眠症の薬は市販で購入できる?

上記のような処方が必要な薬は、市販では購入ができません。

市販では睡眠改善薬を購入することができます。

一般的に、ドリエルなどのジフェンヒドラミン製剤と漢方が購入可能です。

ジフェンヒドラミン製剤はもともとアレルギーの薬として使用されていました。しかし、眠気が出るため注意が必要な薬でした。

そこで、眠気のデメリットを逆に活用し、睡眠改善薬として販売されるようになりました。

漢方製剤は、柴胡加竜骨牡蠣湯、加味帰脾湯が不眠症に対して販売されています。

いずれの薬も一時的な不眠に対して販売されています。慢性的に不眠が続き、不眠症の治療が必要な場合には自己判断で市販薬を購入せず、必ず病院を受診しましょう。

市販の睡眠薬は効く?

一般的に市販されているジフェンヒドラミン製剤はもともとアレルギーで使用される薬です。そのため、医師、薬剤師は積極的な推奨をしていません。

耐性がつきやすい、起床時の眠気が残りやすい(持ち越し効果)、その他の副作用などが理由です。

また、長期的な効果と安全性が確認されていないため、長期間の服用もお勧めしません。販売メーカー側からも、一時的な不眠に対して使用するように注意書きをしています。

旅行による時差ぼけや翌日の予定が気になり眠れないなど、一時的な不眠に対してのみ使用可能です。

不眠症の症状に当てはまる場合には病院を受診するようにしましょう。

不眠症の市販薬|各成分や処方薬との違い

市販されている薬の成分や処方薬との違いを確認してみましょう。

市販薬の成分について

市販されている睡眠改善薬の一部を紹介します。

  • ネオデイ:ジフェンヒドラミン製剤

  • ドリエルEX:ジフェンヒドラミンのカプセル製剤。香料にラベンダーアロマが配合されている。

  • 柴胡加竜骨牡蠣湯:漢方製剤。心を落ち着かせ、興奮からくる不眠に。

処方薬との違いは?

処方箋でもらう睡眠薬と市販の睡眠改善薬はなにが違うのでしょうか?

市販の睡眠改善薬は抗ヒスタミン薬といわれる、もともとアレルギーの治療に使われる薬です。

そのため間接的に睡眠に対しての効果が得られますが、体の他の部分へも影響しています。

処方薬は医師が症状に合わせ、ひとりひとりに最適な薬を選んで処方しています。そのため、症状に合わせた治療が可能です。

あくまで市販薬は一時的なものです。不眠が慢性的に続く場合は受診するようにしましょう。

睡眠導入剤を飲み続けるとどうなるの?持ち越し効果の対処法は?

不眠症の薬を飲み続けると依存症になったり、禁断症状が出たりするのではないかという不安をよく耳にします。

過去に使用されていたバルビツール酸系の薬物では、大量摂取による事件も過去にあり、不安になる気持ちはよく分かります。

しかし、現在主流になっているベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬は、医師の指示のもと、適切な服用であれば安全に使用できる薬です。

また睡眠薬を毎日飲むと効きづらくなり、どんどん量が増えていくのではないかという心配を耳にします。

現在主流の薬剤の中で、ベンゾジアゼピン系の薬は長期使用で薬が効きづらくなる耐性が出現しやすいです。

耐性は、治療初期に使われやすい作用時間の短い薬物ほど早期に出現しやすいと言われています。

そのため、薬が効かなくなりどんどん強い薬を飲まないといけなくなるといったイメージにつながっているようです。

不眠症薬のなかでも、非ベンゾジアゼピン系、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬は比較的耐性が生まれづらいと言われています。

比較的安全性も高く、近年は最初に治療に選択されるケースが多いです。

また、睡眠薬で注意が必要なのが持ち越し効果です。

持ち越し効果とは、翌朝以降も薬の作用が残ってしまうことです。起床時のふらつきや日中の眠気は、けがや事故につながる恐れがあるため十分に注意しましょう。

持ち越し効果が高頻度でおきる場合は、必ず医師に報告しましょう。薬が効きすぎている可能性があるため、薬の調整や変更が必要になるケースがあります。

薬物治療以外の不眠症の治療法は?

睡眠薬を使う薬物治療の代わりとして、認知行動療法があります。

不眠症の原因である生活習慣と身体反応に着目し、数回のカウンセリングを行い不眠症の改善をはかります。

また、薬物治療中の方に認知行動療法を行うことで不眠症の薬の量を減らせます。

ただし、実施できる施設が限られている、保険適応外のため金銭的な負担がかかるなどの問題があります。

睡眠障害についてよくある質問

睡眠障害についてよくある質問について解説します。

睡眠障害で出される薬は?

睡眠障害はその原因によって使用される薬剤が選択されます。

不眠症であれば上記のような睡眠薬が使用されることが多いです。その他、うつによる不眠や過眠症、睡眠時無呼吸症候群などでは別の薬剤・治療法が選択されることもあります。

睡眠障害かもしれないと思ったら、自分で判断せず一度病院で医師に相談してみましょう。

デエビゴの欠点は何ですか?

生理的な睡眠を促すデエビゴは、オレキシン受容体拮抗薬に分類されます。

近年開発された薬であり、比較的翌日の眠気が少ないのが特徴です。オレキシン受容体拮抗薬には現在ベルソムラとデエビゴの2種類があります。

オレキシン受容体拮抗薬の欠点として、悪夢、金縛りの副作用があります。

がデエビゴはベルソムラよりも新しく、悪夢、金縛りの症状がおこりにくいです。

また、新しい薬なのでジェネリック医薬品がなく、価格が高めのため長期服薬の負担が比較的大きいです。

不眠症の第一選択薬は?

不眠症の分類にもよりますが、現在の第一選択薬は、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬です。

持ち越し効果、筋弛緩作用が少なく、安全性が比較的高いため第一選択薬として試されることが多いです。

その後は効果を見ながら、入眠障害、中途覚醒など不眠症の種類により増減量、薬の変更を行い、治療していきます。

不眠症には何がいい?

不眠症を薬を使わないで治したい方もいると思います。

不眠症は生活を見直すことも重要です。

良質な睡眠内容を得るために、主に下記のような生活改善が有効です。

  • 定期的な運動

  • 寝室環境

  • 規則正しい食生活

  • 就寝前に水分・カフェインを摂取しない

  • 飲酒、喫煙を控える

  • 寝る前に考えごとをしない

まとめ

睡眠障害の種類を確認し、その中でも不眠症の治療薬について解説してきました。

不眠症の薬物療法は、ひとりひとりの不眠症のタイプにあった適切な作用時間の薬を選択します。
また近年では生理的な睡眠を促す薬も開発され、睡眠状況に合わせた治療が可能です。

市販の睡眠改善薬も販売されていますが、一時的な不眠に対する薬であり、眠れない状況が続く場合は病院を受診しましょう。

不眠症の薬物療法には、悪い印象をもちやすいですが、医師の指導のもと正しく服薬すれば安心して治療を行うことができます。

不眠症に悩まれている方はひとりで悩まず、一度病院で相談してみましょう。

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