社交不安障害(SAD)とは?症状や診断、治療について解説!

公開日: 2024/01/09 更新日: 2024/05/22
人前で注目を浴びる状況では誰もが多少なりとも緊張や不安を感じるものです。 しかし、人によってはそれが耐え難い苦痛となり、動悸などの身体症状が出ることがあります。 もし、不安や緊張、それに伴う身体症状が日常生活を困難にするほどであれば、社会不安障害(SAD)という病気かもしれません。 ここでは社会不安障害の症状や診断、治療法について詳しく解説していきます。

社交不安障害とは?

社交不安障害とは、他人からの注目が集まる状況で強い緊張や不安を感じ、日常生活を正常に送れなくなる病気です。

人前で緊張するのは誰にでも経験があることですが、社交不安障害では必要以上の強い緊張や不安を感じるほか、動機やふるえ、発汗などの身体症状が現れることがあります。

通常であれば同じような場面を何度も経験することで慣れが生じ、不安や緊張が軽減されますが、社交不安障害では不安や緊張が改善されずに悪化していくことが特徴です。

そして、強い不安を繰り返し経験することで、徐々に不安を感じる場面を避けるようになり、仕事や学校、人間関係などに大きな影響が出るようになります。

社会不安障害は、以前はあがり症などといわれ気持ちや性格の問題とされていました。しかし現在では治療が必要な病気として認知されています。

社交不安障害と社会不安障害に違いはある?

社交不安障害と社会不安障害は同じものを指しています。

もともとは社会不安障害と呼ばれていましたが、現在では社交不安障害と呼ばれることが一般的です。

そのほか、あがり症や赤面症、対人恐怖症などと言われることもあります。

社交不安障害の原因は?

社交不安障害の原因はまだ研究段階のため、はっきりとは解明されていませんが、セロトニンやドパミンなど脳内の神経伝達物質の異常が関係しているといわれています。

脳内の神経伝達物質に異常をきたす原因としては、経験的要因や性格的要因、生育環境、生物学的要因などがあげられます。

  • 経験的要因

過去に人前などの注目が集まる状況で恥ずかしい体験をしたことがある。

他人の失敗を見て、失敗のイメージがつく。

  • 性格的要因

人見知り、内向的、心配性、真面目、完璧主義など。

  • 生育環境

幼児期の家庭環境による影響(過保護や過干渉、家庭内不和、虐待など)

自己肯定感が低い。困難を回避する行動パターンを学習してきた。

  • 生物学的要因、遺伝的要因

第一度親族内に社交不安障害を発症している患者がいる。

セロトニンなどの神経伝達物質の働きに弱い部分がある。

以上のような要因が重なって、社会不安障害を発症するのではないかといわれています。

社交不安障害の症状

社会不安障害では、誰もが緊張するプレゼンのような状況だけでなく、雑談や会食、電話対応など、ごくありふれた日常の中でも強い緊張を感じたり身体症状が現れたりします。

社交不安障害の患者さんに起こりやすい身体症状としては以下のものが挙げられます。

  • ふるえ、発汗
  • 動悸、息苦しさ
  • 胃腸症状(吐き気、腹痛、下痢)
  • ほてり、赤面
  • めまい
  • 口の渇き

強い緊張だけでなく身体症状も現れることから、社交不安障害の患者さんは、だんだんと緊張する場面を避けるようになってしまったり無口になってしまうなど、日常生活に影響が出ていくのです。

社交不安障害の診断方法は?自分でチェックする方法はある?

社交不安障害の診断はDSM-5を基準にして医師が総合的に判断します。

DSM-5とは精神疾患の診断基準・診断分類のひとつで、アメリカ精神医学会が作成しているものです。

以下はDSM-5の内容をわかりやすく記載したものです。

A 他人から注目を浴びる社会的状況に対する著しい恐怖または不安がある

(社交的環境とは、雑談すること、よく知らない人に会うこと、他人の前で食べたり飲んだりすること、他人の前でスピーチなどをすること)

B 他人に不安であることを見せて、否定的な評価を受けるのではないかと恐れている

C その社交的状況に直面するとほとんどいつも不安や恐怖を感じる

D その社交的状況を回避する、または、直面して強い恐怖または不安を感じながらも耐える

E  恐怖または不安は、社会的状況には釣り合わない不条理な感情である

F  恐怖、不安を感じることや、社会的状況を回避することが、持続的に6ヵ月以上続く

G 恐怖、不安を感じることや、社会的状況を回避することによって社会的支障をきたしている

H  恐怖、不安は他の原因(他の病気、薬物乱用など)によるものではない

I   パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では説明できない

J   他の医学的疾患( パーキンソン病、肥満など)があっても、その疾患とは無関係である

おりたメンタルクリニック

適切な治療のためには、社会不安障害と間違われやすい病気との鑑別や、社会不安障害に併発しやすい精神疾患(パニック障害やうつ病など)が混在していないかの判断も重要になります。

精神疾患は、血液検査や画像診断のように直接診断をすることはできません。そのため、医師の問診やDSM-5のような診断基準をもちいた総合的な判断が必要となります。

社交不安障害の重症度を診断する方法は?

社交不安障害の重症度の診断にはLSAS-J(リーボヴィッツ社交不安尺度)が使用されます。これは、社交不安障害の重症度を数値で客観的に表わす事ができる検査です。

LSAS-Jは、対人関係や日常生活の場面を想定した24の項目があります。

これに対して「恐怖や不安の程度」と「回避の割合」を0〜3の4段階で回答し、点数化することで社交不安障害の重症度を客観的に判断します。

社交不安障害の治療法

社交不安障害の治療には薬物療法と心理療法があります。

ここではそれぞれの治療法について詳しく解説します。

薬物療法

社交不安障害に使用される薬は、神経伝達物質の働きを調節する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、不安に対して使用されるベンゾジアゼピン系抗不安薬、さまざまな身体症状に対して使用されるその他の薬剤があります。

SSRI

社交不安障害の第一選択となる薬です。脳内の神経伝達物質であるセロトニンの働きを調節しますが、即効性ではなく数週間かけて徐々に効果を発揮します。

すぐに効果が感じられないからといって自己判断で中止しないように注意してください。

セロトニンには気持ちを安定させる効果がありますが、社交不安障害の方はセロトニンのバランスが崩れていると考えられます。

SSRIは、神経間のセロトニンの再取り込みを抑制することでセロトニンのバランスを整え、不安や緊張を改善していきます。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬

脳内の神経伝達物質であるGABAの働きを調節することで抗不安作用を示します。

即効性がありますが、常用により依存性が形成されることがあります。

SSRIの効果が不十分なときに併用して使われたり、不安が強いときにだけ頓服として使われたりすることが多い薬です。

ベンゾジアゼピン系抗不安は作用時間の長さで分類されますが、超短時間作用型〜超長時間作用型の薬剤まで多くの種類があり、症状に合わせて選ばれます。

その他の薬剤

社会不安障害では不安をコントロールするためにSSRIやベンゾジアゼピン系抗不安薬を使用しますが、他にも動悸や発汗などの身体的症状を改善するための薬も使用されます。

  • β遮断薬
    交感神経の働きを抑えることで動悸や息切れ、ふるえなどに効果があります。
  • 抗コリン薬
    アセチルコリンの働きを抑えるため、発汗に効果があります。
  • 吐き気止め
    胃腸の働きを整えるので、不安からくる吐き気に効果があります。

心理療法

心理療法では主に認知行動療法によって不安の改善を図ります。

認知行動療法とは、自分の認知と実際の出来事の食い違いに目を向けて、考え方のバランスをとる治療法です。

ものの考え方や感じ方のことを認知といいますが、ひとつの物事でも認知の仕方は人により様々です。

社交不安障害の患者さんは物事をマイナスに捉える傾向がありますが、これは人からの評価を気にしすぎていたり、自意識が過剰な状態であることが関係しています。

認知行動療法では、どのような出来事がおきて自分はどう感じたか、どのような考え方をしたのか、主観と客観的な事実に矛盾はないかなどを振り返り、バランスのとれた考え方を導いていきます。

社交不安障害を発症しやすい人とは?

社交不安障害を発症する人には、いくつかの特徴が見られます。

自己評価が低く劣等感を持ちやすい、困難に立ち向かえない、感受性が強く人間関係に敏感、人に好かれたい気持ちが強いなどです。

しかし、このような特徴を持つ人が必ずしも社交不安障害を発症するわけではありません。

もともと持っている性格的特徴に加えて、批判を受けやすい子供時代を過ごしていたり、虐待を受けていたりすることで社交不安障害を発症するのではないかといわれています。

発症しやすい年齢としては、10代から20代の若い世代が多く、ときには10代以下での発症もみられます。

これは、家族以外との人間関係を築いていく時期なので、他人からどう見られているかを強く意識するためです。

一方で、25歳以上での発症はまれですが、昇進などにより環境が変わると発症するケースがあります。

社交不安障害かもしれないと思ったら?

社交不安障害の症状に心当たりがあると、病院に行くべきか迷ってしまいます。しかし、自信の健康のためにも迷わずに心療内科や精神科を受診しましょう。

心療内科や精神科というと少し受診しにくいイメージがあるかもしれません。また、どの程度の症状でどの科を受診したらよいのか悩む方もいるでしょう。

受診のタイミングに悩んだときはセルフチェックなどを参考にすることもありますが、受診のタイミングにはっきりとした基準はありません。

現状につらさを感じていたり、体に症状が出ているのであれば受診を検討しましょう。

精神科ではうつ病や双極性障害などの精神領域の疾患の治療がメインとなり、心療内科ではストレスなど心の状態が体に影響を及ぼす心身症の治療をメインとしています。

しかし、両者を明確に区別せず、実際はどちらも診療しているところもあります。

精神科も心療内科も予約制が基本となるため、予約時に病状を伝えて診てもらえるか確認をすると良いでしょう。

社交不安障害は早期発見・早期治療により完全に症状がなくなることが期待できます。

しかし、社交不安障害の患者さんの多くは、治療できる病気という認識がなく、ただの性格と考えて辛い現状に耐えているのです。

社交不安障害を放置すると重症化して慢性化するだけでなく、うつ病やパニック障害を併発する可能性があります。

社交不安障害の症状に気が付いたときは、いち早く医療機関を受診して適切な診察を受け、確実な治療に繋げることが大切です。

Q&A

社交不安症は障害ですか?

社交不安症と社交不安障害は同じものを指しており、治療が必要な障害として認知されています。

社交不安障害でない方でも慣れない状況では緊張して不安を感じるため、正常範囲と社交不安障害にはっきりとした境界線はありません。

しかし、強い不安や恐怖により日常生活に影響がでたり、身体に症状が出てくるようであれば障害として診断され、治療が必要になります。

社交不安障害を放っておくとどうなる?

社交不安障害は放置すると回復しにくくなるだけでなく、仕事や人間関係、結婚などに大きな影響をあたえ、うつ病などの精神疾患を引き起こすことがあります。

社交不安障害を発症しやすい年齢は10〜20代ですが、受診する年齢は発症年齢とは必ずしも一致しません。

社交不安障害の症状が病気と気づかれずに10年以上放置されることも珍しくないからです。

早期に治療を開始すれば回復率が高くなりますが、長年放置されることで慢性化し、非常に回復しにくくなります。

他の精神疾患であるうつ病やパニック障害とくらべても自然の経過で回復する率はいちじるしく低く、治療しなければ一生続く病気でもあります。

そのため、社会不安障害の症状に気がついたときは、なるべく早く医療機関を受診することが大切です。

社交性不安障害は完治しますか?

社交不安障害は、薬物療法と精神療法の併用により1年〜3年ほどで半数〜8割の方が寛解状態(症状が出ない状態)になると言われています。

しかし、社交不安障害の発症には過去の経験や遺伝的要因も関係しているため、一旦改善しても環境の変化により再発する可能性があります。

社交不安障害とHSPの違いは何ですか?

HSP(Highly Sensitive Person)は、生まれつき繊細で敏感な性質の人であり、社交不安障害は人前での過度な緊張や不安により日常生活に影響を及ぼすような疾患のことを指しています。

つまり、HSPは生まれつきの性質、社会不安障害は疾患という点で異なります。

HSPと社交不安障害は概念として異なるものですが、「敏感」「不安を感じやすい」といった共通点もあります。

まとめ

社交不安障害はまだ認知度が高いとは言えず、受診の機会を逃している患者さんがたくさんいると考えられています。

社交不安障害の問題の一つは、発症する年齢が低いため、気づかずに放置するとその後の人生に大きな影響を与える点です。

しかし、早期に発見して適切な治療を行えば、ほとんどの人が回復する疾患でもあります。

人前で過度な緊張を感じる、緊張や不安により身体症状が出る、電話や食事など日常生活で他人の視線が気になってしまうなどの症状に心当たりがあれば社交不安障害の可能性があります。

性格だからとあきらめてしまわずに、ぜひ早期に受診することを検討してみてください。

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